親知らずは、「斜めに生えてくる」「一部が歯茎に埋もれたまま」という問題を抱えていることが多いのが特徴です。これらの問題がきっかけとなり、大きなトラブルに発展する例も珍しくありません。親知らずが痛み始めたら、どのように対処すれば良いのでしょうか?この記事では、痛みの原因や応急処置の方法について解説していきます。
この記事の目次
1.親知らずの痛みは、智歯周囲炎(ちししゅういえん)かも!
親知らずの周辺が痛むという方の多くは、「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」です。
「智歯(ちし)」とは親知らずのことです。
親知らずの周囲の組織と、歯周ポケットに起こる炎症を指して、智歯周囲炎と呼びます。
1-1 親知らずの痛み・腫れがひどい!
親知らずの周囲が炎症を起こすと、驚くほどの痛みが生じる場合があります。
人によっては、「痛くて口が開けられない」「顔がパンパンに腫れる」といった症状が現れることあります。
智歯周囲炎(ちししゅういえん)による親知らずの痛み
親知らず周辺の歯茎が腫れて、顎(あご)全体が痛むようなら、智歯周囲炎(ちししゅういえん)を疑ってください。
智歯周囲炎とは、親知らずの周囲の歯茎に雑菌が増殖して起こる炎症です。
たいていの場合、智歯周囲炎の原因は「斜めに生えてきた親知らず」「一部が歯茎に埋もれた親知らず」です。
歯ブラシの構造は平面を磨くように出来ているので、まっすぐに生えていない歯があるとブラッシングが上手くできません。
斜めに生えている歯があると、手前の歯との隙間が磨きにくくなります。
また、一部埋もれた歯があると、歯茎に隠れた部分がまったく磨けません。
その結果、いつも決まった場所を磨き残してしまい、細菌の塊である歯垢(しこう)が溜まっていきます。
歯石を放置すれば、雑菌が増えて炎症を起こします。
顎(あご)全体が腫れたり、高熱を出したりする例も…!?
顎が大きく腫れ上がる・耳の周辺や首筋に痛みや腫れを生じる・高熱などの症状を、歯性感染症と呼びます。
歯性感染症とは智歯周囲炎や虫歯、歯周病などの炎症が周囲の組織にまで及び、起こる疾患のことです。
その疾患には、次のようなものがあります。
◆化膿性リンパ節炎(かのうせいりんぱせつえん)
炎症が首のリンパに及ぶと、リンパ節が腫れます。多くは、同時に発熱を伴います。
◆顎骨骨膜炎(がっこつこつまくえん)
顎(あご)の骨のまわりに感染すると、顔全体が大きく腫れあがります。
脈拍に合わせてズキズキと強く痛みます。
◆蜂窩織炎(ほうかしきえん)
口の中がむくんだり、腫れたりします。激痛を伴い、口を開けることも困難になります。
高熱が出るのに加えて、全身がだるくなるなど、急激に症状が進行していきます。
歯性感染症は、抗生物質で治療!
歯性感染症の治療には、抗生物質が使用されます。
幅広い細菌を殺菌する「ペニシリン系」「セファム系」の抗生物質を処方されることが多くあります。
症状が軽ければ薬の服用で済みますが、重症例には」点滴を用いることになります。
炎症の程度を調べるには、血液検査をおこないます。
「CRP(C反応性蛋白)」という数値が「10.0以上」なら入院が必要になり、点滴を投与するのが一般的です。
CRPの正常値は「0.3以下」で、CRPとは炎症反応を示す数値です。
1-2 親知らずの炎症は繰り返す!
親知らずの痛みや炎症が悪化せずに治まったとしても、根本的な治療をしなければ高い確率で炎症を繰り返します。
原因歯がある限り、炎症は繰り返す!
智歯周囲炎を起こしても、悪化しないことも多くあります。
腫れと痛みが出るけれど、数日で改善するといったケースです。
しかし、雑菌の温床になっている親知らずが存在する限り、根本的な原因は解消されません。
体力が落ちたとき、体調を崩したときに再発し、再び歯茎が赤く腫れます。
原因である親知らずを治療しない限り、何度でも繰り返す恐れがあります。
抜歯後の痛みは、人により千差万別!
「親知らずの抜歯は痛いらしいから…」と躊躇(ちゅうちょ)している人も多いのではないでしょうか?
親知らずの抜歯の痛みには、個人差があります。
友人・家族が抜歯後に痛い思いをしたとしても、自分が痛いかどうかはわかりません。
一般的に、親知らずを抜歯したあとに痛みが出やすい状態とされるのは、次の通りです。
◆上の歯に比べると、下の歯のほうが痛い
◆根元が神経に接触している歯は痛い
◆骨を削る必要がある抜歯(難抜歯)は痛い
◆真横を向いている、「水平埋伏智歯(すいへいまいふくちし)」はより痛い
◆斜め向きの歯は、歯茎を切開し縫合するため、痛みが出やすい
ただし、痛みの感じ方にも個人差があるので、一概に「こういう場合は痛みが強い」とは言えません。
上記の基準は目安となります。
2.他にもある!親知らずの痛みの原因
もちろん、親知らずが痛む原因は、智歯周囲炎だけではありません。
そのほかにも、いくつかの原因が考えられます。
親知らず周辺が痛み出したときは、次のような原因も疑ってみてください。
2-1 隣の歯を圧迫することによる痛み
親知らずが、「斜め向き」「横向き」に生えてきた場合、手前の歯(第二大臼歯)を圧迫することがあります。
この状態では、当然、圧迫される第二大臼歯に痛みが出ます。
多くの場合、噛んだときに痛いという症状が出るようです。
歯は圧迫されると移動します。
その上、根元を圧迫されると根が溶けて短くなる性質(歯根吸収)を持っています。
長期間にわたる圧迫が続くと、歯並びの悪化、第二大臼歯の寿命が短くなるといった悪影響が出ます。
このようなケースでは、第二大臼歯に悪影響が出る前に、早期抜歯が必要です。
2-2 歯茎を傷つけていることによる痛み
親知らずは、4本すべて生えてくるとは限りません。
昔の人に比べて、現代は顎が小さい人が多く、「3本しか生えない」「2本しか生えない」という人もたくさんいます。
「上は生えているけれど、下は生えない」といったケースもあり得ます。
上下の親知らずがどちらかしか生えていない場合、生えている親知らずに対して噛み合う歯がありません。
そのため、噛むたびに下の歯茎に傷をつけてしまいます。
「親知らずが外側に傾いて生えてくる」という例もあります。
この場合、口を閉じた拍子に「頬粘膜(きょうねんまく:頬の内側)」を噛んでしまうことがあります。
その結果、頬粘膜を傷つけることになります。口の粘膜を傷つける問題がある場合、やはり早めの抜歯が必要になります。
2-3 虫歯による痛み
親知らずは、虫歯になりやすい歯です。
ただでさえ歯ブラシが届きにくい位置にある上、まっすぐに生えていないことも多いからです。
きれいに並んでいるならともかく、斜めに生えているような場合は、特定の場所に歯ブラシが当たらないという状況に陥ります。
ですので、親知らずは非常に虫歯リスクが高い歯だと言えます。
「親知らずが生えてきて、数か月で虫歯になった」という例も珍しくありません。
特に親知らずが斜めになっている場合は、トラブルの元になるケースが多く存在します。
親知らずが斜めに生えていると、手前にある歯である、第二大臼歯との隣接面がうまく磨けません。
その結果、親知らずと第二大臼歯の隣接面が、虫歯になりやすくなります。
親知らずがあるために、第二大臼歯まで巻き込んで虫歯になってしまいます。
3.親知らずに痛みが出たときの応急処置
親知らずが痛み出したときに、役立つ応急処置法を知っておきましょう。
可能であればすぐに歯医者さんを受診することをおすすめしますが、すぐに歯医者さんにかかれないタイミングもたくさんあります。
「一時的にでも、痛みを和らげたい」という場合に役立ててください。
3-1 智歯周囲炎の場合
親知らずの周囲が腫れて痛む場合は、歯茎が雑菌に感染しています。
痛みを抑えるには、お口の中の雑菌を取り除く必要があります。
さほど痛みがひどくない場合は、デンタルフロスやワンタフトブラシ(※)を使い、親知らずの周囲をきれいにしましょう。
「歯垢=細菌のかたまり」であるため、歯垢を落とすことができれば、雑菌を減らすことができます。
※ワンタフトブラシは特定のポイントを磨くための歯ブラシです。小さなヘッド、円錐形のブラシが特徴です。
さらに、殺菌作用のあるうがい薬でうがいをし、雑菌を抑えましょう。
特におすすめなのは、歯周病菌の殺菌作用のある「クロルヘキシジン」を配合したうがい薬です。
手元にないようであれば、一般的な「ポビドンヨード」のうがい薬でも構いません。
3-2 第二大臼歯を圧迫している場合
圧迫による痛みは、物理的なものです。
殺菌・消毒などによる症状の緩和は望めません。
市販の痛み止めを服用し、痛みの緩和を図りましょう。
痛みが強いようなら、医療用の鎮痛成分「ロキソプロフェン」を配合した鎮痛剤がおすすめです。
3-3 口の中を傷つけている場合
口内に大きな傷を負ったなら医療機関を受診するべきですが、小さな傷なら自宅で様子を見ても良いでしょう。
ただし、傷口が感染すると炎症を起こし、長引く恐れがあります。
そこで、感染予防のために口の中を殺菌・消毒しましょう。
うがい薬である「クロルヘキシジン」「ポビドンヨード」のほか、「塩化セチルピリジニウム(CPC)」も役立ちます。
CPCは、市販の洗口液にも配合されています。
ただし、傷があるときにアルコールが配合されている洗口液の使用はやめましょう。アルコールが傷口にしみるためです。
ノンアルコール&低刺激なうがい薬を選ぶようにしてください。
3-4 虫歯になっている場合
虫歯の痛みを根本から解決するには、歯医者さんで虫歯治療を受けるしかありません。
すぐに歯医者さんを受診できないようなら、市販の鎮痛剤で痛みを抑えましょう。
「ロキソプロフェン」を配合した鎮痛剤がおすすめです。
虫歯の痛みを一時的に抑える塗り薬もあります。
服用するタイプの薬も、塗るタイプの薬も、あくまでも痛みを一時的にしのぐものでしかありません。
虫歯そのものをなくすことはできないので、なるべく早く歯医者さんを受診してください。
4.まとめ
親知らずが斜めに生えてきた、横向きに埋まっているという場合は、移植や矯正で適切な位置に戻すといった治療法もあります。
まっ直ぐに生えていて、かみ合う歯がある場合も、抜歯の必要はありません。
ただし、問題が生じた場合は歯医者さんと相談をして、抜歯を選択する必要も出てきます。
「親知らず=抜歯」と決めつけず、よく歯医者さんと相談した上で方針を決めてください。
【監修医 尾上剛先生からのコメント】
親知らずの痛みはつらいと思います。
歯医者さんとしても磨けてないからだよとしか言えないのも事実。
磨きにくい歯は磨けるように練習するか抜いてしまうか、磨けるように歯を動かすかといった治療があります。
現在は、親知らずは全部抜くよりも残せるものは残して、他の歯が虫歯になった場合の「移植用」に温存する。といった取り組みをしている歯医者さんも増えてきています。
痛みが出る前に歯医者さんで相談してみることをおすすめします。
【あわせて読みたい】
・親知らずが気になる方も要チェック!歯が埋まっている埋伏歯の原因や治療を解説
監修医
尾上 剛先生
ごうデンタルクリニック 院長
経歴
出身校:神奈川歯科大学
卒業年月日:2009年3月
2010年 新潟大学付属医歯学総合病院 勤務
2011年 神奈川歯科大学付属横浜クリニック 入局
2013年 斉藤歯科クリニック 院長就任
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