歯茎が腫れたり、噛むだけで痛みを生じたりする原因のひとつに、歯根や歯茎に膿(うみ)がたまってしまうことが挙げられます。膿を放置して悪化してしまうと、顎の骨を溶かしてしまうこともあります。
ここでは膿がたまる原因や、自分で膿を出すことはできるのか、痛みがあるときの対処方法を紹介しています。歯根に膿がたまる「根尖性歯周炎」「歯根嚢胞」の症状や原因、治療方法を掲載しています。また、歯茎や歯根に膿がたまって痛い場合の、対処方法も掲載しているので、痛みで困っているかたは参考にしてみてください。
この記事の目次
1.歯茎に膿がたまってつらいときの対処方法とNG行動
1-1.痛みがあるときの応急処置方法
歯茎や歯根に膿がたまってしまい、痛みが生じてしまったときには、歯茎が炎症を起こしている恐れがあるため、早めの歯医者さんへの受診をおすすめします。
歯医者さんへの受診まで、痛みを我慢することが難しい場合は下記の方法で痛みを和らげることができます。
・うがい薬で口をゆすぐなど、口腔内を清潔に保つ
膿がたまっているときは、お口のなかで細菌が増殖しやすい状態です。うがい薬を活用したうがいにより、細菌の増殖を抑えます。うがい薬は刺激が強いものだと、うがいの最中に痛みが増してしまうことがあります。また、歯ブラシを活用する際にはやわらかめの歯ブラシで患部を刺激しないよう、優しく磨いてください。
・鎮痛剤を使用して、痛みを和らげる
眠れない、活動ができないほどの痛みがある場合には、鎮痛剤を用いて痛みを和らげることもできます。
・痛みを感じる箇所を外側から冷やす
膿などによる腫れで患部が熱を持ってしまっている場合には、患部を冷やすことも有効的です。患部を内側から直接冷やすと血行不良が起こってしまうこともあるため、外側から冷たいタオルなどで冷やす程度に留めてください。
1-2.歯茎に膿がたまっているときに控えたほうがよい行動
避けたほうがよい行動は、血行がよくなることです。血行がよくなると、痛みが増してしまう恐れがあります。血行がよくなる行動としては、
・入浴
・飲酒
・激しい運動
などが挙げられます。痛みがあるときは安静にしていることが大切です。
また、膿を自分で出すことも控えたほうがよい行動です。膿の周辺は清潔ではないので、手や針などで触ることで傷口が広がったり細菌に感染してしまったりする恐れもあります。前に述べたとおり、我慢できない場合には応急処置を行いながら、すぐに歯医者さんに行くようにしてください。
1-3.痛くなるだけでない!歯茎に膿がたまっているときに出る症状
痛みだけでなく、下記のような症状が現れることもあります。こうした症状も、周辺組織の炎症が関係している恐れがあるため、痛みが強くなる前に歯医者さんに受診することを検討してください。
・歯茎が腫れる
・歯茎にできものができる
・口臭が強くなる
・歯が浮く感覚・圧迫感が生じる
2.歯根や歯茎に膿がたまってしまう疾患は?症状や原因を紹介
2-1.根尖性歯周炎
根尖性歯周炎は、虫歯が根尖(歯の根の先端)に膿がたまり炎症を起こしている状態です。顎の骨や歯茎といった周辺組織に広がることもあり、慢性と急性に分けられます。
慢性の場合は痛みなどの自覚症状がほとんどなく、レントゲン撮影をした際にはじめて気づく、というケースも少なくありません。 レントゲン撮影をすると、骨が溶けて穴が開いた部分が、歯根の先に黒い影としてうつります。この穴に膿がたまります。
一方、急性の場合は歯が浮くような感覚や、噛んだときの強い痛み、自発痛(何もしなくても痛む)といった症状が現れます。慢性的な症状をすでに発症している人でも、急性の症状に変化することがあります。
歯根などに膿がたまると、「フィステル」と呼ばれるものが歯茎の周辺にできます。これは、たまった膿が出ていくための穴で、白ニキビのような見た目をしています。「フィステル」は、歯根で生じた膿が骨を通って歯茎から出ているため、周囲の骨が溶けてしまっていることになります。
2-2.歯根嚢胞
歯根嚢胞とは、歯根に嚢胞(のうほう=液状の内容物が入った袋状のもの)ができる病気です。歯根嚢胞もやはり、初期の段階では痛みなどの自覚症状が少なく、レントゲン撮影をしてはじめて気づくケースが多いです。
しかし、治療をしないでいると炎症が続き、膿や上皮細胞といった液状の内容物が袋にたまり、徐々に大きくなっていきます。その結果、噛んだときに嚢胞が圧迫されたり、大きくなった嚢胞が周辺の神経を圧迫したりして痛みが出るようになります。
また、放っておくと顎の骨や歯根が膿によって溶けてしまったり、歯の動揺(グラつき)を招いたりもします。歯根嚢胞は下顎(かがく)よりも上顎(じょうがく)にできやすいとされ、その比率は4:6(※1)といわれています。
上顎に歯根嚢胞ができてしまうと、歯根嚢胞による炎症が近い距離にある上顎洞(※2)にも広がってしまうことがあります。
その結果、急性副鼻腔炎(ふくびくうえん※3)や蓄膿症(ちくのうしょう※4)などの病気、頭痛といった症状を引き起こすことがあります。
※1参考:歯原性嚢胞
※2「鼻腔(びくう)」が鼻の穴であるのに対し、鼻腔の周りの骨の中に作られた左右4箇所ずつ(合計8箇所)の空洞を「副鼻腔(ふくびくう)」と言います。
副鼻腔のうち、上顎にもっとも近い空洞を、上顎洞(じょうがくどう)といいます。このように、上顎と副鼻腔の位置関係が近いため、上顎の炎症が副鼻腔に広がることも考えられます。
※3急性副鼻腔炎とは、ウイルスや細菌が副鼻腔に感染して引き起こされる病気です。鼻水や発熱、鼻づまりといった症状がみられます。
※4蓄膿症とは、膿が溜まることが原因となって引き起こされる病気です。別名、慢性副鼻腔炎とも言い、鼻図まりや鼻水、咳などの症状が3か月以上続きます。
2-3.歯周病(歯槽膿漏)
歯周病は歯と歯茎の間にプラークなどがたまることで、炎症を起こす疾患です。
初期症状では、歯磨きの際に血が出やすくなったり、歯茎が腫れたりする程度の症状です。進行するにつれて、歯肉の位置が下がっていったり、口臭にまで影響を及ぼしたりすることがあります。また、歯茎が腫れるため、膿が出ることもあります。
2-4.疾患以外でも膿はたまることがある
上記に挙げたような疾患だけでなく、大きな力が加わり歯根が折れてしまう「歯根破折」により膿が歯茎にたまってしまうことがあります。
また、生えかけ・斜めに生えている親知らずと歯茎の間に汚れや細菌がたまることで、周辺の歯茎が膿んでしまったり、傷ついた歯茎周辺に膿が生じたりする場合もあります。
3.疾患別!膿がたまってしまう原因は?
3-1.根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)
根尖性歯周炎の原因には、虫歯が大きく関わってきます。虫歯は、歯の表面が溶けていく初期段階から、歯の内側にある歯髄(しずい=歯の神経部分)に向かって症状が進行していきます。
虫歯が歯髄に達すると、強い痛みが生じます。歯の神経が虫歯に侵食されても治療せずに放置すると、歯の神経が死にます。最終的に歯の神経の周辺組織にまで虫歯が広がり、根尖性歯周炎を引き起こします。
虫歯以外にも、外傷によって歯の神経が死んでしまった場合や、神経の治療が中断してしまったり治療の間隔が空きすぎてしまったりした場合も、根尖性歯周炎になりやすいといわれています。
また、過去に歯の神経を取って歯根の治療をした人でも、何らかの原因で歯根が細菌に感染し、炎症を起こすことで根尖性歯周炎になるケースもあります。
3-2.歯根嚢胞(しこんのうほう)
歯根嚢胞は、根尖性歯周炎が慢性化し、炎症が起きている状態が続くことで起きる症状です。
患部に歯根肉芽腫(にくげしゅ)と呼ばれる腫瘤(しゅりゅう=炎症によって過剰に作られた繊維物質のかたまり、腫れ物)ができます。根尖性歯周炎と歯根肉芽腫が進行していくことで、歯根嚢胞となります。
嚢胞には根尖性歯周炎による膿、炎症細胞(炎症を引き起こしたり悪化させたりする細胞の総称)、上皮細胞(じょうひさいぼう=歯根の内側を覆う組織の細胞)、赤血球や白血球などが含まれていることがあります。
私たちの体が炎症を抑えるための防御反応を起こす結果、上皮(※)が膿を取り囲み、歯根嚢胞ができると考えられています。
※上皮(じょうひ)
体の表面や体内の器官を覆う細胞の層を上皮といいます。この記事でいう上皮は、「歯根の内側の表面を覆う細胞の層」を意味します。
3-3.歯周病(歯槽膿漏)
歯周病は歯茎の炎症である「歯肉炎」から始まり、歯茎全体が腫れる「歯槽膿漏」になります。歯茎が腫れると歯が歯肉から離れていくため、歯と歯茎の間に隙間ができます。
この隙間に食べかすやプラークがたまってしまうことで、歯周病は進行していきます。歯茎から膿が出るようになるのは、歯周病が「中度」「重度」まで進行している状態です。
4.歯根に膿が詰まったときの治療方法
根尖性歯周炎や歯根嚢胞は自然に改善しません。
放置してしまうと炎症が広がり、顎の骨や歯根が溶けることもあります。
初期症状は自覚症状がないことも多く、気がついたときには嚢胞が大きくなっていたり、噛んだときの違和感や歯のグラつきなどを招いたりします。
さらに進行が進むと、抜歯しなければならないこともあるため、早めの治療が大切になります。
根尖性歯周炎や歯根嚢胞は状態により治療法が異なり、医師の判断の元、炎症の程度や歯の状態、嚢胞の大きさなどによって方法が変化していきます。
具体的にどのような治療法があるのか、代表的なものをご紹介します。
4-1.根管治療(こんかんちりょう)
根管治療は、歯の神経を取り、根管(神経や血管がある部分)をきれいに洗浄、消毒する治療方法です。
歯の神経を取った部分が細菌に再感染しないように、根管に薬を詰め、被せものでしっかり塞ぎます。根管治療を行うと神経を除去してしまうため、歯にヒビが入りやすくなってしまいます。
また、歯が変色してしまったり、虫歯に気づきにくくなったりしてしまうという特徴を持っています。
4-2.嚢胞摘出術(のうほうてきしゅつじゅつ)
嚢胞摘出術は、根管治療では治らない場合に行う治療法です。歯茎を切開し顎の骨を削り、歯根嚢胞を摘出します。
摘出後は歯茎を縫い合わせます。
4-3.歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)
歯根端切除術は、根管の形状が複雑な場合、あるいは被せものが取れないといった場合に行う治療法です。
嚢胞摘出手術とともに、感染源となった歯も抜歯します。原因となった歯が残せそうな場合には、感染箇所部分のみを切除します。
4-4.抜歯
炎症が大きいといった理由で、上記いずれの治療法でも歯を残すことができないと医師が診断した場合は、抜歯することもあります。
5.歯根に膿をためないために大切なこと
歯根に膿が溜まっても自覚症状がないことが多いため、気づかずに炎症を進行させてしまう人は少なくありません。
歯根に膿を溜めないために大切なことは、歯医者さんで定期検診を受けることです。
早い段階で発見し早期治療につなげられれば、治療にかかる費用や期間といった負担が少なくて済むだけでなく、自分の歯を残せる可能性も大きくなります。
6.まとめ
この記事では、歯根に膿が溜まる病気や主な症状、治療法について解説してきました。
特に痛みといった初期症状が少ないケースは気づきにくいため、注意が必要です。放置して歯根嚢胞ができてしまうと、顎の骨が溶けたり歯根が溶けたりして、自分の歯を残せなくなってしまうかもしれません。
しばらく定期検診に行っていない人や
・歯根の治療をしたことがある
・神経を取ったことがある
・治療を途中でやめてしまった
・外傷で神経が死んでしまった
・歯が割れている、ヒビが入っている
このような人はぜひ一度、歯医者さんで定期健診を受けることをおすすめします。
【監修医 貝塚 浩二先生のコメント】
歯茎から膿がたまる病気や主な症状の場合は、歯茎だけではなく、歯にも異常が生じているケースも多いです。そのため、上述したような症状が認められた時点で、歯科を受診することをおすすめします。治療が遅れると、歯そのものを失うことにもなりかねません。
また歯茎を切らずにレーザーエンドという治療法もあるので、歯科医院に相談してみて下さい。
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監修医
貝塚 浩二先生
コージ歯科 院長
経歴
1980年 岐阜歯科大学 卒業
1980年~ (医)友歯会ユー歯科~ 箱根、横浜、青山、身延の診療所 勤務
1985年 コージ歯科 開業
1996年~2002年 日本大学松戸歯学部生化学教室 研究生
歯学博士号 取得
2014年 昭和大学 客員講師
現在に至る
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