【この記事の要約】
唾液腺腫瘍とは:唾液をつくる腺に発生する腫瘍の総称で、良性(多形腺腫、ワルチン腫瘍など)と悪性(粘表皮がん、腺様嚢胞がんなど)に分類されます。
唾液腺腫瘍の症状:初期段階では自覚症状が少ない場合もありますが、しこりや腫れ、痛み、口の渇き、顔面神経麻痺などが挙げられます。
唾液腺腫瘍の原因:唾液腺の細胞が異常増殖することによって起こると考えられていますが、具体的なメカニズムは未解明な部分が多く、放射線被曝、喫煙、ウイルス感染、遺伝的要素が関与する可能性が指摘されています。
唾液腺腫瘍の診断・検査:視診、触診に加え、超音波検査、CT、MRIなどの画像検査、さらに細胞診や生検が行われます。
唾液腺腫瘍の治療:腫瘍の種類や進行度、患者の全身状態を考慮し、手術による摘出が主な治療法で、悪性の場合には放射線療法や化学療法が併用されることもあります。
唾液腺腫瘍の予防:明確な予防法は確立されていませんが、喫煙や過度な飲酒などの生活習慣の見直しが推奨され、異常を感じたら早期の医療機関受診が重要です。
唾液腺腫瘍と間違えやすい症状・病気:唾石症や唾液腺炎など、見た目や症状が似ているものの原因や進行機序が異なる疾患があります。
唾液腺腫瘍の治療を行っている診療科:歯科口腔外科
この記事の目次
1.唾液腺腫瘍とは
唾液腺腫瘍とは、その名の通り唾液をつくる腺に生じる腫瘍の総称で、良性と悪性に大きく分かれます。唾液腺というのは、耳の前あたりにある耳下腺、あごの下にある顎下腺、舌の下にある舌下腺の三つの大きな腺と、それ以外の口の中に散在する小唾液腺の集合体です。腫瘍が最も発生しやすいのは耳下腺ですが、顎下腺や小唾液腺にも生じる可能性があり、まれに舌下腺に発生することも報告されています。
良性腫瘍(多形腺腫、ワルチン腫瘍など)
良性の唾液腺腫瘍としてよく知られているのが多形腺腫とワルチン腫瘍です。多形腺腫は耳下腺に発生しやすく、しこりとして触れることが多いものの、初期には痛みなどの明確な症状が出にくいのが特徴です。触ったときに弾力性を感じたり、腫瘍がゆっくりと大きくなることもありますが、急激にサイズが変化するケースは少ないとされています。
ワルチン腫瘍は多形腺腫に比べるとややまれですが、やはり耳下腺に発生しやすい腫瘍の一種です。一般的に良性とされるものの、自然に消えるわけではないため、腫瘍が大きくなって顔の輪郭に影響を及ぼしたり、近隣の神経を圧迫するような段階になる前に、手術など適切な処置を検討する必要があります。
悪性腫瘍(粘表皮がん、腺様嚢胞がんなど)
悪性腫瘍の代表例としては、粘表皮がんや腺様嚢胞がんが挙げられます。これらは唾液腺腫瘍の中では数は少ないものの、転移のリスクや顔面神経麻痺を引き起こす可能性があるため、早期発見と適切な治療が極めて重要です。特に腺様嚢胞がんは、進行がゆっくりな一方で神経周囲へ広がりやすい特徴を持っているといわれ、長期的な経過観察が欠かせません。
悪性の場合、周囲のリンパ節への転移や再発リスクも無視できません。外見上の腫れが小さくても、内部では徐々に進行している場合があります。
悪性かどうかを正確に判定するためには細胞診や画像検査が必要ですし、医療機関での精密検査を通して、確実な診断を受けることが安心につながります。
2.唾液腺腫瘍の症状
唾液腺腫瘍の症状は、腫瘍の種類や進行度合いによって症状が変化するため、どんなサインが出るのかを知っておくことはとても大切です。特に初期段階では見過ごされがちですが、いち早く気づければ治療の選択肢が広がる可能性があります。
腫瘍が小さい段階では自覚症状が少ないケースがある
腫瘍がまだ小さいときには、しこりに触れても痛みがほとんどなく、日常生活でも気にならないことが多いものです。そのまま何年も放置してしまい、ある日鏡を見て「輪郭が少し変わった」と感じてようやく受診するケースも珍しくありません。身体の一部に違和感を覚えても、必ずしも痛みを伴わないため、「放っておけば治るだろう」と思い込みがちです。しかし、良性・悪性にかかわらず、腫瘍は大きくなるにつれて周囲の組織を圧迫したり、神経に影響を及ぼしたりする可能性があります。自覚症状が乏しくても、触ってわかる腫瘍がある場合は早めの検査が安心です。
しこりや違和感
唾液腺腫瘍を疑う最も典型的なサインのひとつが、耳の前やあごの下、あるいは頬の内側などにしこりを感じることです。そのしこりは、押すと弾力がある場合もあれば、硬く感じる場合もあります。食事中などに違和感を覚える程度で、日常生活に大きな支障が出ないまま放置する人もいるのですが、しこりの大きさが徐々に変化していないか、痛みがないかを注意深く観察しておくことが大切です。
腫れや痛み
腫瘍が大きくなってくると、見た目でわかるほど腫れることがあります。特に耳下腺や顎下腺にできた場合、正面や側面から見たときに輪郭の左右差が目立ち、鏡で確認して初めて気づくケースもあります。痛みが出るかどうかは個人差がありますが、痛みが強くなったり、食事のたびに腫れがひどくなるようであれば、炎症や感染が関わっていることも考えられます。このような症状が続く場合には、早急に病院で検査を受けることを検討してください。
口の渇き
唾液腺に腫瘍があると、唾液の分泌量が低下するケースがあります。特に顎下腺や舌下腺など、唾液の分泌を担う主要な腺に問題が生じると、口の渇きが続いたり、食べ物を飲み込みにくかったりと感じることがあるでしょう。口腔内が乾燥すると虫歯や歯周病のリスクも高まるため、「ひどく喉が渇く」「口の中がネバネバする」といった変化を感じたら要注意です。もちろん、ストレスや生活習慣など他の要因も考えられますが、原因不明の口の渇きが続く場合は、唾液腺の異常を疑ってみてもよいでしょう。
顔面神経麻痺
耳下腺の近くには顔面神経が走っているため、腫瘍が神経を圧迫すると表情筋の動きに支障が出たり、顔面にしびれを感じたりすることがあります。特に悪性腫瘍は顔面神経に浸潤しやすいケースもあり、放置していると症状が進行してしまうおそれがあります。たとえば笑ったときに片側だけ口角が上がりにくい、まぶたが閉じにくい、といった違和感があれば、唾液腺の腫瘍だけでなく顔面神経そのものの疾患も含めて、専門医に相談することが大切です。
3.唾液腺腫瘍の原因
唾液腺腫瘍の原因は、耳下腺や顎下腺など唾液を作り出す組織の細胞が何らかのきっかけで異常増殖して起こると考えられています。一般的な腫瘍と同様に、細胞の遺伝子に変化が生じることでコントロールを失い、無秩序に増えてしまうのです。ただ、具体的な発生メカニズムの多くはまだ解明されていない部分があり、リスク要因としては放射線被曝や喫煙習慣が挙げられるほか、ウイルス感染や遺伝的要素が関与している可能性も指摘されています。
また、唾液腺腫瘍は多岐にわたるタイプが存在し、腫瘍ができる腺の部位や細胞の種類によって性質や増殖の仕方が異なる点も特徴です。そうした多様性から原因を一つに絞り込むのが難しいとされており、腫瘍の性質ごとに研究が進められている段階です。
4.唾液腺腫瘍の検査・診断
唾液腺腫瘍の検査・診断は、視診や触診によって症状の程度やしこりの性質を確かめるのが第一歩です。それだけでははっきりとした腫瘍の有無や種類を特定できないため、次に行われるのが画像検査で、超音波検査(エコー)やCT、MRIなどが一般的に用いられます。超音波検査は放射線被曝がなく身体への負担も比較的小さいため、唾液腺付近に生じたしこりの評価を初期段階で行う場合に適しています。
こうした画像検査に加えて、しこりの細胞を取り出して顕微鏡で調べる細胞診や、必要に応じて行われる生検(組織の一部を採取する検査)が実施されることもあります。
5.唾液腺腫瘍の治療
唾液腺腫瘍の治療は、まず腫瘍の種類や進行度、患者さん本人の全身状態を考慮したうえで、最も効果的と考えられるアプローチが選択されます。良性腫瘍であっても、大きくなると神経を圧迫したり、顔の変形につながったりする可能性があるため、積極的に摘出手術が行われるケースは少なくありません。悪性腫瘍が疑われる場合は周辺組織に広がりやすい特性があることから、周囲への浸潤状態を把握したうえで外科的切除と放射線療法を組み合わせることもあります。
また、化学療法が検討されることもありますが、唾液腺腫瘍の種類によって薬剤の効果が異なるため、専門医による正確な診断と個別の治療計画が欠かせません。
6.唾液腺腫瘍の予防
唾液腺腫瘍の予防は、遺伝子レベルの要因が関わるケースもあるため、残念ながら「これをすれば必ず防げる」という明確な予防法は確立されていません。しかし、喫煙や過度な飲酒といった生活習慣を見直すことは、口腔やのど周辺の健康を保つうえで大切です。
また、日常的に喉の痛みや腫れを感じる場合は、早めに医療機関を受診することで、もし腫瘍があったとしても初期段階で発見できる可能性が高くなります。
7.唾液腺腫瘍に似ている病気(疾患)
唾液腺腫瘍に似ている病気(疾患)は、見た目や症状が腫瘍に似ているものの、実際には全く異なる原因や進行機序を持つ疾患群を指します。
例えば、唾石症では、唾液の排出路が詰まることで石が形成され、その結果として腺が腫れたり痛みが生じたりしますが、これは細胞の異常増殖ではなく、物理的な閉塞によるものです。また、細菌やウイルスによる唾液腺炎も、急性の炎症反応により腺が一時的に腫れることで、腫瘍のように見えることがあります。
8.この病気・疾患に対応している歯科の診療科目
歯科口腔外科

監修医
古橋 淳一先生
あおぞら歯科クリニック本院 理事長・院長
経歴
2000年 広島大学歯学部 卒業
2000年~2001年 医療法人社団 不二見会 ふじみ歯科医院浦安診療所 勤務
2001年~2005年 医療法人社団 不二見会 ふじみ歯科医院南行徳診療所 勤務(所長)
2005年 あおぞら歯科クリニック 開院
2007年 医療法人社団爽晴会 設立・理事長就任
2010年 あおぞら歯科クリニック鎌ヶ谷 開院
2012年 あおぞら歯科クリニック新館 開院
2015年 なないろ歯科クリニック 開院
2017年 あおぞら歯科クリニック下総中山 開院
現在に至る
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