生活の中で歯が折れたり欠けたりすることは珍しいことではありません。例えばスポーツの試合中に激しく相手とぶつかったり、転倒により地面や壁に強く激突したりと様々な場面で起こり得ます。
歯が折れる・欠ける場合の良くあるパターンは、「少しだけ欠けた」「大きめに欠けた」「根本に近い部分から折れた」「歯茎の中で折れている」などです。
歯に大きな負荷がかかると、歯だけでなくその周りの組織もダメージを受けている可能性があります。例えば、歯がぐらぐらするなら歯根膜という箇所が、歯がしみるのであれば神経が損傷しているかもしれません。また、出血がある場合は歯肉がダメージを受けています。
特に出血があるとパニックになってしまいそうですが、決して慌てないでください。こちらの記事では、歯が折れたり欠けたりした場合にまずどのような対処をするのがよいかご紹介しています。
自分でできる応急処置や歯医者さんで受けることができる、歯が折れたときの治療のタイプ(保険診療と自由診療)とそれぞれの治療費の目安などを詳しくご説明しますので、ぜひ参考にしてみてください。
1.歯が折れた!応急処置ですべきこと
折れた歯を探して拾う
歯が折れたら、驚いてしてしまう人がほとんどでしょう。しかし、まずは落ち着くことが先決です。冷静に口の中の状況を確認するとともに、周囲を見回して折れた歯の欠片を探しましょう。
折れた歯を元通りにくっつけることは難しいものの、不可能ではありません。また、折れた歯の欠片を治療に生かすことも可能です。
折れた歯、割れた歯の欠片を保管
折れた歯や割れた歯が見つかったら、細かな欠片も残らず保管します。折れた歯の状態を保つためには、乾燥が大敵です。
歯が丸ごと脱臼して抜けた場合は、歯根膜を新鮮な状態で保存し、再植した際に骨にくっつく確率を少しでも上げるため、できれば生理食塩水に漬けてお口の中に生えていた時に近い状態で保管するのが理想ですが、身近に生理食塩水がない場合には、生理食塩水と似た成分からなる牛乳に漬けておくのもおすすめです。短時間の保管であれば、口の中で保管するのもOK。とはいえ、飲み込んでしまわないよう注意が必要です。
自分で患部を触らないこと
歯が折れたら、患部が気になってついつい手を触れてしまいがちですが、手についた雑菌が患部に移り、炎症を起こしてしまうケースもあります。
自己判断でぐらついた歯を抜いたり、やたらと触ったりするようなことは避けましょう。治るケースでも治療が難しくなってしまいます。
出血がある場合や汚れがひどい場合など、やさしくうがいする程度であればOKですが、むやみに患部に触れるのは禁物です。
折れた箇所に消毒や詰めものはしない
歯が折れた際に歯茎に傷がついたからと消毒したり、歯の欠けた部分にガムなどを詰めたりする処置も絶対にやめましょう。素人判断でいいかげんな処置を行うと、細菌の繁殖などを招き、患部の状態を悪化させてしまうことも。できるだけそのままの状態を保つのが、治療への近道なのです。
痛みがあれば鎮痛薬を服用
ぶつけるなどして歯が折れた際に、痛みが出る場合があります。がまんできない痛みがあるなら、市販の鎮痛薬などであれば服用してもよいでしょう。歯が折れた際に自己判断でむやみやたらな処置を行うことはおすすめできませんが、つらい痛みをがまんしすぎることはありません。
できるだけ早く歯医者さんを受診
歯が折れてしまった時に、一番やってはいけないのが「放置すること」。一刻も早く歯医者さんを受診して、正しい診断と治療を受けることが重要です。
できれば、歯が折れる前の状態をよく知るかかりつけの歯科医院を受診するのがオススメですが、かかりつけの歯医者さんがいない場合には近くで信頼できる歯医者を探しましょう。
治療方針決定は焦らないこと
歯が折れたり、欠けたりするといった歯の外傷では、ぶつけたばかりの時には腫れや出血、揺れなどが大きく、歯医者さんの診断と処置も大げさになる傾向があります。
まずは出血や痛みをなくして腫れを治める消炎処置を受け、歯を抜く、神経を抜くといった後戻りのできない治療については、状態が落ち着いてからにするということもできます。
大げさな処置で後悔しないように、治療方針決定は急ぎすぎず、落ち着いて冷静に判断しましょう。
2.歯が折れた際に受けられる2タイプの治療
タイプ1:健康保険適用の治療
歯が折れたときに受けられる治療には、健康保険が適用されるものがあります。見た目や耐久性では劣る部分はありますが、比較的安価に受けられるのが保険治療の特徴です。
折れた歯の状態にもよりますが、おおよそ3千円から5千円くらいで治療を受けることができます。
タイプ2:自由診療による治療
折れた歯が前歯や目立つ箇所であったり、見た目の美しさや耐久性にこだわるのであれば、自由診療がおすすめです。セラミックなどの素材を使うことができるため、より美しく、自然な仕上がりを長く保てます。ただし、治療費が高額になってしまうのがデメリットです。
治療法や歯の状態、使用する素材などによって治療費は異なりますが、だいたい、3〜10万円。歯の根本から折れてインプラントが必要になるなどの場合は、数十万円~と考えておきましょう。
3.折れた歯を保険診療で治す
コンポジットレジン修復
歯科用樹脂・コンポジットレジンで折れたり欠けたりした歯の部分を埋める治療法です。保険適用のため安価な治療であり、一度の通院で治療を完了することができます。ただし、コンポジットレジンは自然な仕上がりが難しいうえ、劣化すると変色してしまうことがあります。
また、接着面積が小さいので強度が弱く、噛む力に耐えられず取れてしまうこともあります。
硬質レジン前装冠
前歯の範囲であれば保険治療で作成することができます。中身や裏側は金属でできていますが、外から見える表面部分は硬質レジンというプラスチック素材を使い、見た目ではクラウンだとわかりにくくなっています。強度がありますが、長期間使用するとレジンが変色したり、金属アレルギーを起こしてしまうこともあるようです。
4.折れた歯を自由診療で治す
破損片の接着修復
折れた歯の欠片を、特殊な接着剤を用いてもとあった場所に接着する治療法です。すべての欠片が元の状態に戻せるわけではなく、必要に応じて樹脂であるレジン充填しながら仕上げます。
自由診療となりますが、シンプルな治療法であるため比較的治療費は安価で、数千円で済む場合が多いようです。
ラミネートベニア
比較的欠損が大きくない(少し欠けた程度)ケースで用いられる治療法で、歯の表面を薄く削り、薄いセラミックをかぶせて接着させる方法です。前歯など目につきやすい場所でも美しく自然に仕上がります。
強度を保ちづらいため、欠損部が大きすぎるケースでは向きません。治療費は1本数万円程度となります。
セラミッククラウン
長期にわたり、美しい状態を保つことができる治療法です。セラミック製クラウンを、折れたり欠けたりした歯にかぶせます。
天然歯と並んでも差が目立たない自然な仕上がりで、耐久性も高いため、美しい状態を長く保つことが可能です。
かぶせる部分を比較的大きく削る必要があるため、欠けた面積が小さい場合や本来の歯を残したい人にはおすすめできません。また、10〜15万円となり保険適用と比べると治療費が高額となります。
インプラント
根元から歯が折れてしまったら、抜歯してインプラントを施す治療も選べます。素材をかぶせる治療より見た目の美しさや強度を保ちやすいインプラントですが、1本につき30〜40万円と高額な治療費が必要となってしまうデメリットもあります。
硬質レジン前装冠
前歯以外で硬質レジンを選ぶ場合は自由診療となります。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。もしあなたが今、歯が折れてしまっているなら、まずは落ちついてください。折れた歯があれば乾燥させないように生理食塩水や牛乳に浸しておき、歯医者さんへ持っていきましょう。
治療費は折れた歯があれば数千円で治療してもらうことができ、折れた歯が無くても保険診療の対象となる治療方法があります。
前歯が折れてしまったという方や見た目を気にする方は、自由診療がおすすめです。自由診療では治療方法、治療費が幅広いため、ひとまず痛みや出血を抑える治療だけ済ませ、じっくり考えてから決めてください。
かかりつけの歯医者さんか近くの歯医者さんにお問い合わせしてみましょう。 急患対応の歯医者さんでは当日予約の患者さんでも診療してもらえますよ。
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監修医矢島昇悟先生
青山通り歯科 院長
■院長略歴
2007年 | 日本歯科大学 生命歯学部卒業 |
2008年 | 埼玉県羽生市 医療法人社団正匡会 木村歯科医院 |
2010年 | 埼玉県新座市 おぐら歯科医院 |
2011年 | 東京都文京区 後楽園デンタルオフィス |
2015年 | 東京都港区 青山通り歯科 院長 |