抜けた歯を補う治療法として、チタン製の人工歯根を顎の骨に埋め込むのがインプラント治療です。その寿命の長さから、第2の永久歯と呼ばれています。抜けた歯を補う一般的な治療法としては、ブリッジや入れ歯がありますが、それらと比較してインプラントは、実際、どのくらいの長寿命なのでしょうか。
この記事では、第2の永久歯といわれるインプラントの寿命や、その寿命を最大限に高める方法、長寿命につながる治療設備や技術などについて、詳しくご説明します。
1.第2の永久歯と言われる理由はその寿命
10年の残存率は9割以上
インプラント治療を施し10年を経過した後の、平均的な残存率は9割を超えています。適切なメンテナンスを怠らなければ、10年以上使用することができるものです。
10年保証のメーカーなどもある
インプラントにはノーベルバイオケア社のように、インプラントメーカーが10年保証をつけているものもあります。また、昨今ではガイドデントといったインプラント保証会社が、認定した医療機関を通じて、インプラント治療の10年保証を確約してくれるといったシステムもあります。インプラントが長寿命だからこそ可能な保証です。
40年以上使用したケースも
インプラントを入れてから、亡くなるまでの40年以上の間、使い続けていたというケースもあります。人工歯根を埋め込む土台となる骨が健全に保たれ、しっかりメンテナンスができていれば、一生使い続けられる可能性もあるのです。
一方、入れ歯やブリッジの寿命は?
抜けた歯を補う治療法としては他に、ブリッジ(隣の歯と橋渡しをしてつなげる治療法)や入れ歯が代表的ですが、ブリッジでは8年程度、入れ歯は5年程度が平均寿命と言われています。
2.インプラントの寿命を最大限に延ばす方法
2-1 歯周病を予防する口内管理
インプラント自体は虫歯になって壊れたりしませんが、その大敵は歯周病です。歯周病菌によって、インプラントを支える骨が痩せてしまったり、他の歯が歯周病になることで、噛合せのバランスが悪くなり、インプラントの寿命を短くしてしまいます。
セルフケアの基本は自然な歯のケアと変わりありません。デンタルフロスやプラウトブラシ(先端の細いブラシ)なども使って、小さな隙間にも歯垢をためないことが肝心です。
2-2 歯医者さんでの定期クリーニング
自然の歯同様に、自分で行うセルフケアには限界があります。歯を長持ちさせる秘訣は、定期的に歯医者さんでクリーニングしてもらうことですが、インプラントも同様です。
2-3 最適な噛合せの調整
自然な歯には、歯と骨の間に歯根膜という、いわばクッションのような役割をする組織があります。一方、インプラントにはそれがありません。使用しているうちに、インプラントに大きな力がかかる噛合せが生じるケースもあるので、定期的に噛合せをチェックすることも大切です。また、就寝中などに歯ぎしりの癖がある方は、マウスピースで負担を軽減する必要があります。
2-4 骨を健全に保つこと
糖尿病を患っている方には、インプラント治療は推奨されていません。糖尿病は骨粗鬆症になりやすく、人工歯根を支える骨が脆く支えられないリスクがあるためです。ですから、カルシウムの摂取などを心がけ、骨を丈夫に保つこともインプラントを長持ちさせる秘訣となります。
2-5 信頼性の高いメーカーを選ぶこと
インプラントは保険の適用されない高額な治療法ですが、高いお金を支払うからといって、その後の長寿命が約束されるわけではありません。採用するインプラントシステム(インプラントメーカーの提供する部材)が大切で、世界的に知られているメーカーは安全性が高く、寿命も長いと言えます。
3.高精度な設計や手術方法も長寿命の鍵!
インプラントが長い寿命を維持するには、歯医者さんの技術力も大きく関わってくるところです。インプラントを埋め込む十分な骨量があることを見定め、人工歯根を埋め込む的確な位置や、設計通りの手術ができる設備が必要です。
歯科用CT
精密なインプラント治療において、もっとも欠かせない先進のレントゲンが歯科用CTです。これは、歯や骨の位置関係を3次元的に把握するためのもので、インプラントが可能かどうかを判断したり、人工歯根を埋め込むポジションを決定する上で、重要な機器となります。
シミュレーションソフト
歯科用CTで、現状の骨の状態などを把握した後、適切なインプラント治療のプランニングを実現してくれるのが、シミュレーションソフトです。いわば、インプラントの精密な設計図を作ってくれるものとなります。
ガイドサージェリー
いかに、精密な設計図があっても、設計図どおりに治療できなければ意味がありません。ガイドサージェリーは、インプラントを埋め込む設計図に従ってマウスピースを作成し、正確に埋入するためのガイドとなります。
4.インプラントの寿命を損なう大敵は?
インプラントを長く保つのは、自然な歯と同じように歯周病を予防し、定期的に歯医者さんのメンテナンスを受けることが基本です。もっとも避けたいのは、「インプラント周囲炎」です。これは、インプラントの歯周病ともいわれています。自然な歯の歯周病と違う点は進行がとても早いということです。異変に気づいたときには、すでに手遅れとなってしまうケースもあります。
また、インプラントの寿命以前の話ですが、インプラントが定着する前に起こりうるリスクもあります。インプラントの治療で最も重要な時期は、施術してからのおよそ2ヶ月間です。チタン製のインプラントと顎の骨が結合していく時期ですが、この間に細菌などに感染すると、骨との結合がうまくいかずに、インプラントが抜けてしまうというケースは稀に見られます。
5.まとめ
インプラントは、抜けた歯を補うための治療法として、見た目や噛み心地、耐久性において、もっとも優れたものですが、その後のメンテナンスは、自然な歯と同じですし、それは当然、一生続けるものです。
つまり、自然の歯と同様に、メンテナンスを怠れば寿命が短くなります。逆に、セルフメンテナンスと定期的な歯医者さんでのチェックを欠かさなければ、まさに第2の永久歯として食生活を豊かにしてくれるでしょう。
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監修医飯田尚良先生
飯田歯科医院 院長
■院長経歴
1968年 東京歯科大学 卒業
1968年 飯田歯科医院 開院
1971年 University of Southern California School of Dentistry(歯内療法学) 留学
1973年 University of Southern California School of Dentistry(補綴学・歯周病学) 留学
1983年~2009年 東京歯科大学 講師
現在に至る