妊娠中の歯科治療において一番気がかりなのは、治療の際に使用する薬や麻酔薬がおなかの赤ちゃんに影響を与えるかどうかですよね。
この記事では、妊婦さんの虫歯治療の可否や赤ちゃんへの影響について、また妊娠中に行える歯科治療について説明しています。治療への不安を抱いている方は、ぜひ読んでみてください。
この記事の目次
1.妊婦さんでも虫歯治療はできる
いくつかの注意点さえ守れば、妊娠中でも歯科治療をすることは可能です。麻酔や飲み薬を使う場合は種類や量を慎重に選び、レントゲン撮影をする場合はしっかりと防護するなど、適切に管理すれば絶対にできないという訳ではありません。ただ、もしそれでも少しでも不安がある場合は、安定期の時期を選んで治療をすれば胎児への影響も少ないので、それまでは応急処置で我慢をした方がいいかもしれませんね。
どのような虫歯治療ができるのか
歯を削って詰め物をする治療
妊娠中であっても、歯を削って詰め物をする虫歯の治療は普通の人と同じようにできます。虫歯を放っておくと、どんどん進行して痛みが強くなり、出産と歯の痛みが重なることは身体的にも精神的にも辛いので、妊娠中でも虫歯を見つけたら治したほうが良いです。
ただし、時期によっては治療を控えた方が良いときもあるので、その場合は応急処置をするにとどめます。
神経を抜く治療
虫歯がひどい場合には神経の治療が必要になることがあります。妊娠中でも神経の治療をすることは問題ありません。多くは麻酔をして行うことになりますが、後述するように麻酔は胎児への影響はないと考えて大丈夫です。
抜歯をする治療
治療の際必要であれば、妊娠中に麻酔しても、抜歯しても問題はありません。ただし、親知らずの抜歯はしないほうがよいでしょう。一般の人にとっても時間がかかる治療ですし、抜歯後に回復するまで時間がかかったり、長期間抗生物質や痛み止めの服薬が必要になったりする場合もあるからです。
歯肉炎の治療
実は妊婦さんに多いのが、歯肉炎です。約半数の妊婦さんに、歯茎の腫れや出血がみられます。妊娠中は女性ホルモンの働きが活発になるので、一部の歯周病菌が増殖しやすくなるのです。一般的な歯周病の治療を、妊婦さんの様子を見ながら行います。
妊娠何週目から治療ができるのか
治療はなるべく妊娠中期に
妊娠中は体調の変化が大きく変化しますので、できるだけ安定期に治療するようにします。妊娠初期はつわりで気分が悪くなりやすい時期ですから、なにか処置をするにしても、応急処置程度にとどめておくほうが望ましいです。
安定期は妊娠5〜7ヶ月(妊娠16〜27週頃)をさします。この頃であれば、歯科での処置が胎児にも影響が出にくいので、妊娠中になにか治療が必要なのであれば適切な時期とされています。妊娠8ヶ月以降は赤ちゃんが大きくなって母体に負担がかかる時期なので応急処置とし、出産後に改めて治療するほうがよいです。
治療する際に気をつけたいこと
虫歯の治療はできますが、妊娠中であることを考えていくつか注意点があります。まず、治療前に妊娠第何週であるかを歯科医師にきちんと伝えること。妊娠中であると分かれば、医師も下記のような配慮をしてうれます。
・楽な体制で治療が受けられるよう座席を倒し過ぎないようにする
・体調を崩した際は、すぐにトイレに行けるように声かけなどをしてくれる
治療中は無理のない姿勢をとるように心がけることが大切です。お腹が張るような動作は控え、辛いときはすぐ医師に知らせましょう。急に起き上がって立ちくらみを起こすと大変です。転倒にも気をつけて治療を受けるようにしましょう。
その他、治療に対して不安なことは何でも相談しましょう。
2.妊婦が虫歯治療する際に気になる胎児への影響
妊娠中に治療しても、お腹の赤ちゃんに悪影響を及ぼすことはありません。この章では、気になる胎児への治療の安全性について紹介しています。
麻酔による赤ちゃんへの影響
虫歯治療で使われるのは局所麻酔です。胎盤などを通じてお腹の赤ちゃんに麻酔薬が届くことはありません。そして、歯科治療で一般的に麻酔として使われているのはキシロカインという薬で、これは無痛分娩にも用いられているものですので問題ありません。
どうしても麻酔が必要な治療もありますが、このように問題のない麻酔が使われていますので安心です。
レントゲンの赤ちゃんへの影響
治療によっては比較的大きな写真を撮る場合もあるので、赤ちゃんへの被爆が心配になりますが、特に問題ありません。
レントゲン撮影をするときは被爆を避けるための専用のエプロンを胴体に着用しますし、撮影も口部分に限定しているので、影響は最小限に出来ます。
鎮痛剤の赤ちゃんへの影響
治療後に痛み止めを処方される場合がありますが、鎮痛剤の中には妊娠中には使用できない薬があるので注意が必要です。たとえば、強い鎮痛剤のボルタレンは、これまでに死産の報告例があり妊娠中の使用は禁止されています。
また、ロキソニンも鎮痛剤としては有名ですが、妊娠後期は使用が禁止されています。もっとも、歯科医で妊娠中であると告げれば安全なカロナールという鎮痛剤が処方されるので心配ありません。この薬に関しては、これまでに赤ちゃんへの悪影響の報告はされていません。
3.妊娠中に起こる口内トラブルの原因や出産との関係
妊娠中でも歯科治療を受けることは可能ですが、できれば治療を受けずに済むようにしたいものです。なぜ妊娠中に歯が悪くなるのかを知って予防に努めれば、妊娠中の虫歯に悩まされることはなくなります。
また、虫歯は生まれた赤ちゃんにも悪影響を与えることがありますので注意が必要です。
妊娠中に口内環境が悪くなる原因とその対策
妊娠初期のつわりの時期は、口内環境が悪くなりやすい時期です。歯磨き自体が吐き気を催すもとになるため、十分に歯垢を落とし切れずに歯磨きを終えてしまうからです。また、吐くことで口内が酸性に傾いてしまうのも虫歯を作る原因になります。
また、歯周病菌の中には女性ホルモンを好む菌が生息していて、妊娠中に女性ホルモンの働きが活発になることで、歯周病や虫歯になる可能性が高くなるのです。
対策として、5つの方法が挙げられます。
①体調の良い時間帯に歯磨きをする。
つわりがひどい時期は、無理に歯磨きをせずに体調の良い時間帯に歯を磨くようにしましょう。
②奥から前に向かって磨くようにしましょう
つわりのときは、歯ブラシが当たるだけで吐き気を催すことがあります。ゆっくりと奥から前に向かって磨くようにしましょう
③顔を下に向けたまま磨きましょう。
いつもどおりの体制で歯磨きを行うと、のどの奥に唾液や泡が溜まってしまい吐き気を引き起こします。顔を下に向け、のどの奥に流れないようにしましょう。
④デンタルフロスを使用する。
つわりのときは磨き残しが増えるので、デンタルフロスを使用し、歯と歯の汚れをしっかりと除去しましょう。
⑤味の強い歯磨き粉を使用しない。
歯磨き粉の味や匂いによって、気持ち悪くなってしまうことがあります。無味無臭の刺激が少ない歯磨き粉を使用しましょう。
場合によっては、「歯磨き粉をつけない」磨き方もあります。
歯周病と早産との関係
赤ちゃんへの影響として懸念されるのは、実は虫歯の治療そのものよりも歯周病です。妊婦さんが歯周病にかかっていると、低体重児や早産のリスクが高まるというデータがあります。ある大学の研究によれば、歯周病の人の早産と切迫早産のリスクは、健康な歯の人の約5倍も高いという結果が出ています。
この原因は、歯周病の炎症によって分泌されるサイトカインという物質にあります。陣痛はプロスタグランディンという子宮収縮作用のある物質によって引き起こされるのですが、このプロスタグランディンの分泌をサイトカインが促進してしまうのです。歯周病が重度になればなるほど炎症も強くなりますから、早産のリスクも比例して高まっていきます。
出産後の赤ちゃんへの虫歯感染
妊娠中から虫歯治療をしておくことが大事な理由として、出産後の赤ちゃんへの母子感染があります。新生児の口の中には虫歯菌はほぼゼロ。虫歯ができるきっかけは食器の共有などで母親から虫歯菌をもらってしまうことだといわれています。ですから、妊娠中に虫歯をなくしておくことは生まれた赤ちゃんにとって重要です。
4.まとめ
十月十日というくらい妊娠期間は思いのほか長期間に及びます。また、妊娠中はつわりや唾液の減少など、口内環境が悪化する時期で虫歯リスクも高くなります。妊娠中に虫歯治療を受けても大丈夫ですから、痛みを我慢しないで歯科を受診するようにしましょう。
虫歯のリスクを回避するために、妊婦さんのための無料歯科検診を実施している歯医者さんもあるので、受診することをおすすめします。特に30代後半になれば歯周病のリスクがぐんと高くなりますので、この年齢の妊婦さんは注意が必要です。何でもなくても、つわりがおさまった妊娠中期には一度歯のチェックをしてもらって、歯石除去などをしてもらうとよいでしょう。