顎の骨の骨折には主に、下あご・上あご・歯槽骨(歯を支える骨)の骨折が上げられます。軽症の場合には経過観察が主となりますが、状態によっては長い治療やリハビリを要する場合もあります。
この記事では、顎の骨の骨折について、上あご・下あご・歯槽骨の骨折の部位別に症状や治療法をご紹介し、治療後に見られる不具合やリハビリなどについても詳しく解説いたします。
1.部位別の症状と治療法
あごの骨の部位としては、大きく分けて、上あご・下あご・歯槽骨(歯を支える骨)の3つになります。それぞれの症状と治療法について解説していきます。
下あごの骨折
下あごの骨折はもっとも多くみられるケースです。骨折には、事故などによって衝撃を受け骨折する外傷性骨折と、骨の組織自体が炎症や腫瘍などによって壊れる病的骨折があります。あごの骨の骨折は、外傷性骨折が多く、特に上あごよりも下あごの骨が折れるケースが多いのです。
症状
一般的な外傷性骨折と同じく、患部の内出血やはれ、変形が見られます。もちろん痛みもあります。これに加えて、口の開閉が困難になる、または噛み合わせがズレてしまうのも、下あごの骨折の特徴です。
治療法
顔の変形や、噛み合わせ、口の開閉などの違和感といった症状がない場合には、経過観察を主体にします。骨折している部分のズレが大きければ、外科手術によって骨折部位のズレを戻すことが基本となります。これまでは顎間固定が基本治療でしたが、折れた骨をつなぎ、早期にふだんの生活に戻れるようにするために手術を行うことが望ましいものとされています。
上あごの骨折
上あごの骨は、目頭の付近から端に沿って頬の前面、そして上の歯につながるように広がる骨となります。外傷では、鼻の付近への衝撃や、前歯や下あご側からの衝撃などによって骨折するケースが多く見られます。また、上あごの骨折では、軟組織の外傷や歯の脱臼、破折などを伴うことが多いものです。
症状
上あごの骨折では、上あごに隣接している鼻骨、頬(きょう)骨、口蓋(こうがい)骨、頭蓋底(脳を下から支える骨)の骨折を併発することもあります。特に眼球運動の障害や意識障害、髄液漏れが見られる頭蓋底の骨折では、脳神経外科で扱うべき重い損傷となります。
治療法
顔の変形や、口の開閉や噛み合わせの障害が見られない場合には、経過観察を主として、基本的に特別な治療を必要としないこともあります。障害が見られる場合には、顎間の固定による保存療法を第一にします。顎間の固定とは、アーチバーと呼ばれる金属のプレートを上下のあごに装着し、さらに上下のアーチバーをワイヤで固定するものです。骨折部位のズレが大きく、このような保存療法で改善が見込めない場合は、骨折箇所をチタンプレートで固定する外科手術を行います。
歯槽骨の骨折
歯があごの方向にめり込むような衝撃などを受けた場合には、歯を支える骨となる歯槽骨が骨折することもあります。
症状
歯槽骨が折れると、歯が支えを失い、近接する2本以上の歯がグラグラと同時に揺れるような症状が見られます。
治療法
歯槽骨の骨折は、上あごや下あごの骨折と比べると重症度は低いものといえます。ただし、歯に衝撃を受けて、歯の脱臼(歯が歯茎から剥がれてしまうこと)や歯の嵌入(歯がめり込んでしまうこと)を伴うので早期の処置が必要です。治療では、歯槽骨が再生するまで矯正治療のようにワイヤーを歯に固定します。
軽度の顎骨折が疑われる症状
重度の骨折では顔の変形も見られるので見た目でも骨折が分かるものですが、軽度の骨折の場合、しばらく骨折に気づかないケースもあります。遅くとも10日以内に処置を受ければ問題ありませんが、そのまま放置してしまうと、骨折部がズレたまま固まってしまう、もしくは骨がくっつかない状態が続くリスクがあります。
以下のような症状があった場合には、早めに歯科口腔外科で診てもらいましょう。
・歯の噛み合わせにズレや違和感がある
・口が開閉しにくい
・顔面のはれが続く
・内出血がある
・知覚のまひがある
2.顎骨折後の不具合とリハビリ
顎骨折はその程度にもよりますが、手足の骨折などと同様に、顎間固定の装置やプレートを外した後もしばらくは不具合が続き、正常に動かせるようにするためにリハビリが必要となる場合もあります。ここでは、顎の骨折治療の予後に考えられる不具合や、リハビリの内容についてご紹介します。
顎骨折後の不具合
顎骨折後は、以下のような不具合が起こることがあります。
口を大きく開けられない
下あごの骨折では、治療後の顎関節の不具合が起こることがあります。よくあるケースとしては、口を大きく開けられない状態です。ほとんど開けられない場合や、開いても指1本程度しか開かないということもあります。こうした場合には、リハビリが必要となります。
顎関節から異音が鳴る
口を開閉したときに、顎関節がカクカク鳴るなど異音を感じることもあります。折れた部位によって、予後の不具合はさまざまですが、顎関節の関節円板(関節のクッション)がズレている可能性もあります。
顎骨折後のリハビリ
顎間固定による骨折の治療では、少なくともおよそ2~6週間は口を開けられない状態が続きます。手足の関節と同様に、あごの筋肉も使わない状態が続くと固くなり、動きが悪くなるものです。顎骨骨折後のリハビリは主に使わなくなっていた顎骨の筋肉を動かすもので、口を開ける訓練をおこなう、もしくは開口器という装置を使って口を開ける訓練をサポートします。
3.まとめ
顎の骨の骨折について、上あご・下あご・歯槽骨の骨折の部位別に症状や治療法をご紹介してきました。
顎骨が骨折する場合には外からの衝撃によるケースが多く、その場合は当然、歯やその周辺の軟組織の損傷も伴います。外傷というと、整形外科がすぐに思い浮かぶものですが、歯や口内の軟組織、および顎骨の骨折をトータルで診療できる分野は、歯科口腔外科です。お口周辺の外傷は、まず歯科口腔外科でトータルな診療ができることを念頭に置き、もしもの時のために、住まい周辺の歯科口腔外科をあらかじめ知っておくことが肝心です。

監修医
遠藤 三樹夫先生
遠藤歯科クリニック 院長
経歴
1983年大阪大学歯学部 卒業
1983年大阪大学歯科口腔外科第一講座 入局
1985年大阪逓信病院(現 NTT西日本大阪病院)歯科 勤務
1988年遠藤歯科クリニック 開業
現在に至る
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