インプラントにはさまざまな方法がありますが、その中でも「抜歯即時埋入」という治療法をご存じでしょうか?ここでは、一般的なインプラント治療法と比較しながら、抜歯即時埋入インプラントの流れやメリット・デメリットをご紹介します。抜歯即時埋入インプラントについて知り、自分に合った方法かどうか確認してみましょう。
この記事の目次
1.インプラントの抜歯即時埋入とは?
抜歯してすぐに埋入するインプラント
まずは、一般的なインプラント治療の流れを確認し、抜歯即時埋入との違いを比較してみましょう。
通常のインプラント治療では、抜歯後に一定期間を置いて骨の再生を待ちます。これは、インプラントを埋め込む顎の骨の厚さや密度を補うためです。骨の再生には時間がかかるため、インプラント治療には年単位の時間がかかることもあります。また、骨の密度が足りない場合には、インプラント治療ができないこともあります。そのため、インプラント治療を諦めた人もいるかもしれません。
一方、抜歯即時埋入法インプラントは、抜歯後すぐにインプラントを埋め込む治療法です。この方法では、骨補填材(人工骨)を使用することで、抜歯後すぐにインプラントの埋入が可能になり、最終的には当日中に仮歯を取り付けることができます。これにより、これまでのインプラント治療よりも短期間で治療が完了し、インプラント治療が難しいケースでも対応できるようになりました。
抜歯即時埋入法でインプラント治療を行うことで、身体的・精神的な負担を軽減することができます。まずは、抜歯即時埋入法と通常のインプラント治療の違いを確認してみましょう。
骨補填材を埋入
骨補填材とは人工の骨のことです。歯を抜いた後、すぐにインプラントを埋入すると同時に骨補填材も埋入します。これは、インプラントと抜歯した穴の隙間を埋めるために必要な処置です。骨補填材を使用することで、インプラントをより安定して固定することができます。
通常のインプラント治療では、まず抜歯を行い、1~3カ月程度の期間を置いてからインプラントを埋入します。この期間は、抜歯した場所の骨が再生するのを待つためのものです。骨が少しずつ再生する時期にインプラントを行うことで、インプラントと骨が結合しやすくなります。また、抜歯後に時間を置くことは、骨の再生を待つだけでなく、感染症の予防にも役立ちます。
仮歯を装着
即時埋入インプラントでは、インプラントを埋入した後に仮歯を装着します。これにより、歯が生えているような自然な歯茎の状態を維持でき、最終的に人工歯(被せ物)を取り付けた際にも自然な仕上がりになります。
さらに、当日から柔らかいものを咀嚼でき、見た目もきれいな状態を保てるため、生活への影響を最小限に抑えることができます。治療後に仮歯を装着することで、歯肉の形を整えることができるためです。
通常のインプラント治療では、抜歯後に数ヶ月間、骨の再生を待つ必要があります。しかし、抜歯後に歯がない状態が続くと、歯茎が痩せてしまうことがあります。
このデメリットを防ぐことができるのが、即時埋入インプラントです。通常のインプラント治療では、インプラントと骨が安定して結合し、切開した歯茎が治癒した後に人工歯を装着します。仮歯が装着できるのは、骨とインプラントの結合を待つタイミングが早くてもその時点です。
インプラント治療の流れを比較
一般的な治療の流れを比較すると、以下のようになります。
通常のインプラント |
即時埋入インプラント |
診断・治療計画の立案 |
|
必要に応じて抜歯 | 手術:抜歯、インプラントを埋め込む、仮歯の装着 |
↓1~3か月後 | |
一次手術:インプラントを埋め込む手術 | |
↓ | ↓2か月後 |
治癒期間:インプラントと骨の結合を待つ | |
↓2~6か月後 | |
二次手術:インプラントと人工歯の連結部分を装着する手術 | |
↓1~6週間後 | |
人工歯の製作と装着 |
通常のインプラント(2回法):10カ月程度
即時埋入インプラント:4カ月程度
2.抜歯即時埋入インプラントのメリット
歯がない期間がない
通常、抜歯後はしばらく歯がない状態が続きます。しかし、抜歯即時埋入法ではすぐに仮歯を装着するため、歯のない期間を最短に抑えることができます。見た目が気になる方には、このインプラント治療法が適しています。
手術による負担を減らせる
通常のインプラント治療には、手術を2回に分ける方法と1回のみ行う方法があります。これらは患者さんの要望や歯医者さんの治療方針によって異なります。
しかし、どちらの方法でも、抜歯からインプラント埋入、仮歯装着までをその日のうちに行うことはできません。
抜歯即時埋入法では、抜歯手術とインプラント埋入手術を1回の手術で終え、仮歯まで装着することができます。そのため、手術による身体的負担を減らすことが可能です。手術に恐怖心を抱きやすい方は、手術の回数を減らすことで精神的な負担も軽減できます。
治療期間を短くできる
抜歯即時埋入法では、一度の手術でインプラントの埋入まで完了します。人工歯を装着するまでの期間も短く、通常のインプラント治療の半分程度の期間で済むことがあります。痛みや腫れも比較的少ないのが特徴です。
一般的なインプラント治療では、抜歯後2〜6カ月程度は傷跡が治るのを待つ必要があります。インプラントを埋入し、人工歯を取り付けるまでの手術が2回以上になることを考えると、治療期間は半年から1年と長期に渡ることが一般的です。
通常のインプラント治療では、抜歯後に歯茎の骨が痩せるというデメリットがあります。しかし、抜歯即時埋入法なら、歯茎が痩せるのを防ぎ、治療期間も大幅に短縮することができます。
3.抜歯即時埋入インプラントのデメリット
適応条件が厳しい
抜歯即時埋入インプラントのデメリットは、誰もが受けられる治療方法ではないことです。メリットは多いですが、すべての人がこの治療を受けられるわけではありません。抜歯即時埋入インプラントを受けるためには、抜歯後すぐにインプラントを埋入できるだけの骨が歯茎にあることや、歯周病などの病気にかかっていないことが条件となります。骨の量が少なくて骨造成術が必要な場合や、虫歯や歯周病などの症状がある場合は、この治療法を利用できません。
また、抜歯即時埋入インプラントは高度な技術を要するため、対応できる歯医者さんが限られます。技術がなければ簡単には行えない治療なので、信頼できる歯医者さんを見つけることが重要です。例えば、インプラントの形の選び方、使用する手術器具、消毒薬の種類、インプラントを埋入する方向や深度、感染症予防のための縫合方法など、治療を受ける前に確認しておきたいことがたくさんあります。
治療完了までには時間がかかる
一般的なインプラントほど時間はかからないとはいえ、治療が完了するまでには3〜5カ月程度の時間が必要です。これは、顎の骨とインプラントが結合して安定するための期間です。最終的な被せ物を装着したら、治療は完了します。
感染症のリスクが高まる
抜歯とインプラントの手術を一度に行うため、感染症対策がしっかりしている歯医者さんで治療を受けることが重要です。インプラントは外科手術を伴うため、出血が避けられず、感染症のリスクが高まります。
感染症のリスクを下げるためには、感染症対策を徹底している歯医者さんを選ぶことが大切です。例えば、手袋をこまめに交換しているか、ホームページに感染対策についての取り組みが記載されているか、滅菌処理された器具が使われているかなど、インプラント治療を受ける前に院内の様子を確認することが重要です。
新しい治療方法
抜歯即時埋入のインプラント治療は比較的新しい方法で、すべての病院やクリニックで受けられるわけではありません。治療について不明な点があれば、歯医者さんやスタッフにしっかりと尋ね、抜歯即時埋入法のメリット・デメリットを理解してから治療に踏み切ることが大切です。抜歯即時埋入は、インプラントの中でも治療期間が短い方法です。
1日のうちに抜歯からインプラントの埋入、仮歯の装着まで行えるため、一見メリットが多く見えますが、感染症のリスクや手術の難しさを考えると、決断前に確認しておくべきことが多くあります。段階を追って治療する一般的な2回法や1回法のインプラント治療と併せて検討することが必要です。医師にしっかりと治療内容を聞き、納得して治療を受けるようにしてください。

監修医
藤原 崇平先生
湘南台デンタルクリニック 歯科医師
経歴
2008年 長崎大学 卒業
2008年~2018年 島根大学大学院 医学研究科 修了
2008年 島根大学医学部付属病院 勤務
2010年~2011年 島根大学医学部付属病院
歯科口腔外科 勤務
2012年 隠岐病院 歯科口腔外科 医長
2012年~2013年 掛合診療所 勤務
2013年~2017年 玉井歯科 勤務
2017年 湘南台デンタルクリニック 開業
現在に至る
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