ようやく長い間悩まされてきた親知らずを抜歯したと思ったのもつかの間、痛みが収まるどころか酷くなるばかり……そんな症状があるなら、もしかしたらそれは、「ドライソケット」かもしれません。ドライソケットとは、親知らずなどの大臼歯を抜歯した際に起きる症状の一つであり、特に下の親知らずに多いと言われています。割合としては100人いれば2人から4人ほどに見られる症状であり、それほど多くはありませんが、下の親知らずにおいては5人に1人くらいにドライソケットの症状が見られるとする歯科医師もいます。ドライソケットは激痛を伴うことから不安に思う人も少なくないようです。
この記事では、ドライソケットについて、その症状や原因、対策などについて詳しくお伝えしていきます。
この記事の目次
1.ドライソケットとは
親知らずなどの抜歯した後の穴が塞がらず、骨が露出してしまう状態のことをドライソケットといいます。通常、抜歯後には血餅と呼ばれる血のかたまりが穴を覆い、その上を伸びてきた皮膚が覆うことで穴は塞がっていきます。しかし何らかの原因で穴が塞がらずに、その穴に食べもののカスなど汚れなどが入り込むことで骨に当たり、痛みを引き起こします。
2.ドライソケットの症状
以下に当てはまる症状があれば、それはドライソケットかもしれません。
・親知らず抜歯後よりも、2~3日経ってからの痛みの方が強い。
・親知らず抜歯後、1週間以上たっても痛みが治まらず、むしろ酷くなっている。
・何もしなくてもズキズキと痛む
・飲んだり食べたり風が当たったりするともっと痛い
・傷口である穴が、赤黒くなく、白っぽく見える
3.ドライソケットの原因
ドライソケットの原因は、抜歯後にできるはずの血餅がうまく作られないことにあります。では何故、血餅がうまく作られないのでしょうか。
3-1.血餅が作られない理由
うがいを何度もしてしまう
抜歯をすると、ガーゼを患部にあてて血が止まるまで噛むように言われますが、それはしっかりと止血を行うとともに血餅を作るためです。しかし血餅はできあがるまでに時間を要する上、できたばかりの血餅は脆く剥がれやすいため、何度もうがいをしてしまうと剥がれてしまいます。もちろん抜歯直後はうがいを禁じる歯科医院がほとんどですが、抜歯してからもう時間がたったからと安易に考えてしまえば、後々後悔することになりかねません。
抜歯した部分に触れる
これも血餅が剥がれるという点から、うがいと同様にドライソケットになる原因の一つです。親知らずは歯の中でも大きな歯ですから、当然抜歯後は歯にぽっかり穴が開いたようになります。どうしても気になってしまい、知らず知らずのうちに舌で触れたり、指や歯ブラシなどでどういう状態になっているか確認したりしてしまうかもしれません。血餅は転んで怪我をした時にできるかさぶたと似ていると言われています。かさぶたを我慢できずに剥がしてしまった人は少なくないのではないでしょうか。
かさぶたと血餅は、傷口に対してふたをする役目を持つという点においてとても似ています。しかし、かさぶたが剥がしてもすぐに作られる場合がほとんどであるのに対し、血餅はかさぶたのようにはいかないことを肝に銘じておきましょう。血餅を一度はがしてしまえば、また血餅ができるにはさらに時間を要す上に、そのままの状態では自然に血餅が作られない場合も少なくないのです。
お酒や運動、長風呂など血行が良くなること
お酒や運動、長風呂などは体中の血の巡りを良くし、血を止まりにくくさせてしまうので、少なくとも抜歯当日は避けましょう。出血が多いほど、血餅もできやすくなりますが、血がなかなか止まらないことで口の中が不快に感じ、うがいを行ったり、あるいは血が混じった唾を飲み込む動作を頻繁に行ってしまったりすることが考えられます。
飲み込むという口の動きは、何も問題ないようでいて実は傷口の血餅に大きな負担になります。それは飲み込む時に圧力がかかるからです。唾だけでなく、当然ながら飲食であるため、食べたり飲んだりする際には、しっかり血餅ができているかを確認した上で行うようにしたいものです。
喫煙
喫煙はお酒や運動、長風呂などとは対照的に、血の巡りを悪くしてしまいます。血の巡りが悪いと、そもそも抜歯後に十分な血が出にくく、血餅が作られにくくなるためドライソケットのリスクを高めてしまいます。
3-2.それでもドライソケットになった時は?自宅でできる対応とは
ドライソケットは気をつけていてもなる時はあります。特に親知らずの抜歯は、年齢が進めば進むほど、若い時に比べてリスクが高まります。では、抜歯後2~3日たっても痛みが改善されず、ドライソケットかもしれないと感じたらどうすれば良いのでしょうか。
痛み止めを服用する
まず、痛み止めを飲みましょう。ドライソケットはかなり痛むので、無理せず薬の力に頼りましょう。
無理をせず身体を休める
ドライソケットに限らず、歯肉などの状態と体調は密接に関わっています。親知らずの抜歯など身体に負担がかかる治療を行う時は、体調の良い時にするのはもちろんですが、ドライソケットになったと感じたら、しっかり休養をとり無理をしないことが大切です。そのためにも親知らずを抜歯するタイミングは仕事が忙しくない時を見計らうなど、ドライソケットにかかる場合も視野に入れて計画したいものですね。
3-3.ドライソケットになった時は?歯科医院での治療
ドライソケットになったら、なるべく早く抜歯を行った歯科医院に行きましょう。
歯科医院に行くと、まずは抜歯した部分の消毒を行い、抗生物質の軟膏を塗布し、抗生剤や痛み止めを再び処方され、しばらく様子を見ましょうと言われることがほとんどです。レーザー治療を行っている医院であれば、レーザー治療を使用した消炎処置を行う場合もあります。ほとんどの場合、そうした処置により傷口が自然に塞がっていき、それに伴い1~2週間ほどで痛みが和らいでいく場合が多いようです。
3-4.ドライソケットにおける再掻爬とは?
上記の治療を行っても痛みが改善しない場合、再掻爬(さいそうは)といって抜歯して乾いてしまった穴に再び傷をつけて出血をさせ、新たに傷口に血餅を作る処置を行います。
また、ドライソケットの治療において比較的早い段階で再掻爬を行う医師や、再掻爬を行わず消毒や軟膏の塗布などで経過を見るという医師もおり、治療に対する考え方はさまざまと言えます。
どちらにしてもドライソケットにおける再掻爬は最終手段であり、しなくても治るのであればしない方が身体への負担も少なく済みます。再掻爬をぜずに済むためにも、親知らずの抜歯後は無理をせず、しっかりと休養を取って安静に努めることが大切です。
4.まとめ
親知らず抜歯後に起こりやすいドライソケットの症状や対処法について詳しくお伝えしてきました。なるべくなら防ぎたいドライソケットですが、残念ながら完全に防ぐ方法はなく、放置をしてしまうと、炎症が強くなったり、歯茎の形が悪くなったり、場合によっては今後の治療の選択肢に影響を与えてしまいます。
いわば抜歯の宿命ともいえるドライソケットですが、大切なのはドライソケットになったと気づいたら、自然に治ると放置をせずに、なるべく早く治療を行うことです。
【監修医先生からのコメント】
抜いて楽になったはずがさらに強い痛みに襲われたらと思うと怖いですよね。
先生の指示をよく聞いて、少しでもおかしいと思ったら1人で考えずすぐに先生に相談してみてください。
【あわせて読みたい】
監修医
尾上 剛先生
ごうデンタルクリニック 院長
経歴
出身校:神奈川歯科大学
卒業年月日:2009年3月
2010年 新潟大学付属医歯学総合病院 勤務
2011年 神奈川歯科大学付属横浜クリニック 入局
2013年 斉藤歯科クリニック 院長就任
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