下顎隆起

    【この記事の要約】

    下顎隆起とは:下あごの内側、舌側に骨の隆起(出っ張り)ができる状態で、遺伝や噛み合わせ、歯ぎしりなどが影響すると考えられています。

    下顎隆起の症状:多くは無症状ですが、食事時の痛みや入れ歯・矯正装置の不具合、見た目や発音の違和感が出る場合があります。

    下顎隆起の原因:遺伝、歯ぎしり、噛み合わせの乱れ、加齢による骨代謝の変化などが複合的に関与すると考えられます。

    下顎隆起の診断・検査:視診・触診が基本で、必要に応じてレントゲンやCT検査などの画像診断が行われます。

    下顎隆起の治療:症状がなければ経過観察とし、痛みや義歯の不具合があれば外科的な除去手術が検討されます。

    下顎隆起の予防:歯ぎしり対策のナイトガード使用や、バランスの取れた食生活、定期的な歯科検診が有効です。

    下顎隆起と間違えやすい症状・病気:エナメル上皮腫、含歯性嚢胞、単純性骨嚢胞など、外見が似た腫瘍や嚢胞との鑑別が必要です。

    下顎隆起の治療を行っている診療科:歯科口腔外科

    この記事の目次

    1.下顎隆起とは

    下顎隆起とは、下あごの骨が特定の部分で突出して、歯ぐきの内側が盛り上がった状態を指します。多くの場合は下あごの左右両側、舌側(歯の裏側)にコブのような骨の出っ張りが確認されます。下顎隆起が生じる原因は明確には解明されていませんが、遺伝的要因や歯ぎしり、噛み合わせの問題などが関与している可能性が指摘されています。

    また、遺伝要因として生まれつき下あごの骨が厚かったり、成長しやすい骨質をもっていたりする場合もあり、人によっては若いうちから目立つ形で進行することがあります。

    2.下顎隆起の症状

    下顎隆起の症状は、日常生活の中ではほとんど気づかれないほど軽度であることが多く、初期の段階では無症状で経過するのが一般的です。

    実際、多くの人は歯科検診の際に医師から指摘されて初めて、自身に下顎隆起があることを知ります。下顎の内側、舌の付け根近くのあたりに、左右対称の硬いふくらみが触れるのが特徴で、これが最も代表的な症状といえるでしょう。

    ここでは、下顎隆起に伴う他の代表的な症状や、放置がもたらすリスクについて詳しく解説していきます。

    痛みが出る

    下顎隆起による痛みは、骨が直接痛むというよりも、盛り上がった部分に刺激が加わることで起こることが多いようです。例えば、食事の際に硬いものを噛んだときなどに食片があたり痛みを感じやすくなります。

    こうした状態を長く続けていると、下顎隆起によって神経が直接圧迫されるケースはまれですが、口腔内粘膜の慢性的な痛みや病変を生じる可能性もあります。

    入れ歯・矯正器具への影響

    下顎隆起があると、入れ歯や矯正装置がフィットしづらくなることがあります。もともと入れ歯が当たる位置に骨が盛り上がっていると、装着時に強い圧迫感や痛みを覚えてしまい、きちんとはまらずにズレてしまったりするかもしれません。矯正器具に関しても、歯列やあごの形状が予定よりも変化してしまうため、治療計画どおりに歯を動かせないことが考えられます。

    そうした不具合をそのままにしておくと、歯科治療の効果が十分に得られないばかりか、さらに骨に刺激が加わって下顎隆起が悪化するケースもあるため注意が必要です。

    見た目の悪化

    下あごの内側にできた骨の出っ張りは、正面からは見えにくいものの、口を大きく開けたときや下唇を下げたときに意外と目立つことがあります。本人は気にしていなくても、周囲から「口の中に何かあるの?」と指摘されて初めて下顎隆起に気づくケースもあるようです。

    単に見た目の違和感だけでなく、骨が大きくなりすぎると発音の仕方が変わってしまう可能性もゼロではありません。

    3.下顎隆起の原因

    下顎隆起の原因は、一つに絞られるものではなく、複数の要素が絡み合っていると考えられています。ここでは代表的な要因を順番に見ていきましょう。

    遺伝要因

    下顎隆起の発症には、遺伝的な要因が関与している可能性が指摘されていますが、明確な証拠は現在のところ存在しません。

    ただ両親のどちらか、あるいは祖父母などに骨の突出がある場合、その体質を受け継ぎやすい傾向があるかもしれません。実際に、自分では「噛み合わせも歯ぎしりも問題ない」と思っていても、若い頃から下顎隆起があったという人もいます。遺伝要因が関与している場合は、専門医のフォローや定期的な検診を受けることで、症状の進行を防ぐことは可能です。 

    歯ぎしり

    ストレス社会の中で、就寝中に歯ぎしりをする癖がある方は少なくありません。この歯ぎしりによって歯やあごに強い圧力がかかると、骨が刺激を受け、長期間にわたって負荷がかかり続けることで下顎隆起が形成される可能性があります。一方でこれが直接的な原因であるという明確な証拠は現在のところ存在しません。

    噛み合わせの影響

    歯ぎしりに限らず、普段の噛み合わせが極端に偏っていると、一部の歯やあごの骨に過剰な力が加わりやすくなります。その結果として骨が刺激され、少しずつ盛り上がっていくのが下顎隆起です。噛み合わせの乱れは、虫歯や歯周病など歯の健康状態から派生することもあれば、生まれつき顎の骨格に特徴がある場合にも起こります。

    噛み合わせを調整する矯正治療は下顎隆起のような骨への負担を軽減するメリットが期待できるため、気になる方は専門医に相談するとよいでしょう。

    加齢

    骨は生きている組織なので、加齢にともなって新陳代謝のスピードが変化します。若い頃は目立たなかった下顎隆起が、中年以降に急に大きくなるケースもあり、これには骨の代謝バランスが崩れてくることが関係していると考えられています。

    また、加齢に伴う骨や歯周組織の変化が噛み合わせに影響し、その結果として下顎に負荷がかかる可能性はありますが、加齢が直接的な原因であるかについては明確な科学的根拠は示されていません。

    4.下顎隆起の検査・診断

    下顎隆起の診断は、視診や触診でほとんど可能であり、必要に応じて画像診断で確定します。骨格の特徴を見極めるために、専門の医師は口腔内検査や触診を行い、異常な隆起があるかどうかを確認します。その上で、より正確な評価のために、レントゲン撮影やCTスキャン、さらには側面頭部写真を用いたシーラル分析 など、各種画像診断が実施されます。

    これらの検査は、単に外見上の問題を浮き彫りにするだけでなく、下顎の成長パターンや骨の密度、さらには隣接する組織との関連性も明らかにするため、治療方針を決定する上で不可欠な情報源となります。

    5.下顎隆起の治療

    下顎隆起の治療は、日常生活に支障がなければ特に治療の必要はありません 。しかし、義歯の装着に支障が出る場合や、粘膜が傷つきやすくなる場合には、外科的に削除することが検討されます。

    多くの場合、口の内側からアプローチするため、顔の外に傷が残る心配が少ないことがメリットとして知られています。実際の手術は局所麻酔や全身麻酔を使うケースがあり、骨の大きさや患者さんの健康状態、医師の判断などによって左右されます。

    比較的小さな下顎隆起であれば、多くの場合、日帰り手術が可能です。ただし、骨の状態が複雑だったり、大きく切削しなければならなかったりする場合には数日間の入院が必要となるかもしれません。一方、歯ぎしりや噛み合わせの乱れが進行の要因となっている場合は、歯ぎしり防止のマウスピース(ナイトガード)の装着や噛み合わせの矯正などの対策をセットで行うことも重要です。

    6.下顎隆起の予防

    下顎隆起の予防は、歯ぎしりや食いしばりの癖を認識し、ナイトガードの使用などで顎への負担を軽減することが効果的です。また、よく噛むことは顎の発達には欠かせない一方で、硬すぎる食品を常習的に摂ることで過度な刺激となる可能性もあるため、食生活においてもバランスが求められます。

    定期的な歯科検診を受け、下顎に変化が見られた際には早めに相談することで、隆起の拡大を防ぐとともに、入れ歯治療や外科処置が必要になる事態を回避できます。

    7.下顎隆起に似ている病気(疾患)

    下顎隆起に似ている病気(疾患)は、外見や触れた感触が非常に似ているため、自己判断では見分けがつきにくいことが少なくありません。特に、口腔内にできる硬いふくらみや隆起が、すべて生理的な下顎隆起だと考えてしまうと、実は深刻な疾患を見落としてしまう可能性があります。そのため、見た目が似ている他の病気との鑑別がとても重要になります。

    たとえば、エナメル上皮腫は顎骨にできる良性腫瘍の一種で、初期には痛みがないままゆっくりと成長することがあります。触診では下顎隆起と似ていることもありますが、再発率が高く局所浸潤性を持つため、画像診断による早期発見と的確な治療が重要です。

    さらに、含歯性嚢胞や単純性骨嚢胞のように、骨の中に液体や空洞ができる病変も、外見では生理的な隆起と見分けがつきにくく、レントゲンやCTスキャンによる画像診断が不可欠となります。

    8.この病気・疾患に対応している歯科の診療科目

    歯科口腔外科

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    監修医

    植村 考雄先生

    渋谷サクラステージ徳誠会歯科・矯正歯科 東京エリア統括院長

    経歴

    国立東北大学歯学部 卒業
    独立行政法人 横浜労災病院 歯科口腔外科 勤務
    現在に至る

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