若い人でも総入れ歯を選ぶケースがあり、総入れ歯は高齢者だけのものではありません。「総入れ歯は高齢者のもの」という認識は、もはや過去のものです。
厚生労働省と日本歯科医師会の活動により、総入れ歯の数は減少傾向にありますが、場合によっては自分が総入れ歯になる可能性もあります。総入れ歯には多くの種類があり、それぞれ特徴が異なるため、入れ歯選びやケア方法について歯医者さんと相談することが重要です。ここでは、総入れ歯にする理由、ケア方法、そして総入れ歯にならないためのケア方法について紹介します。
この記事の目次
1.総入れ歯になる平均年齢は?
40代から総入れ歯になるケースも
厚生労働省のデータによると、40代の0.4%の方が総入れ歯を使用し始めています。このことから、総入れ歯が高齢者だけのものではないことがわかります。
70歳からが分岐点
60代では総入れ歯の使用割合が約8%ですが、70代になると急増し24%に達します。このことから、70代の5人に1人が総入れ歯を使用していることがわかります。
85歳以上は60%以上が総入れ歯対象者
85歳以上になると、総入れ歯の割合はさらに増え、63.9%に達します。つまり、85歳以上の方の2人に1人以上が総入れ歯を使用していることがわかります。
8020運動によって起きた変化
85歳以上の方の2人に1人以上が総入れ歯を使用していると聞くと、多くの人が驚くでしょう。しかし、1989年に始まった厚生労働省と日本歯科医師会の「8020運動」により、総入れ歯の割合は少しずつ減少しています。この運動は、80歳になったときに20本の歯を残すことを目指しています。
2.若くして総入れ歯になる理由
事故による損傷
40代で総入れ歯になる原因として多いのは、バイク事故です。顔の怪我で歯を失った方が総入れ歯を使用しています。フルフェイスのヘルメットは顔の怪我を防ぎますが、半キャップヘルメットのように顔部分が守られていないものは、転倒時に顔を怪我しやすく、歯も失いやすくなります。
虫歯を放置していた
20代や30代で部分入れ歯を作ることになった理由として多いのは、ひどい虫歯によるものです。10代から20代の若いころに大きな虫歯ができたり、その虫歯を放置して悪化させたりしたことで、歯や歯茎に悪影響を及ぼすケースが多く見られます。虫歯が進行して内側から歯がボロボロになり、抜く以外の治療ができなくなってしまうことが原因です。
肝疾患を患っている
肝硬変や急性肝炎などの肝臓の病気があると、血液がさらさらになり、出血が止まりにくくなります。そのため、インプラントのように骨に直接ネジを埋め込む治療法は、出血のリスクが高く行えません。したがって、肝臓の病気がある方は総入れ歯を選ぶことが多いとされています。
歯周病が悪化した
歯周病が悪化すると、歯茎がやせ細るだけでなく、下の骨まで溶けてしまいます。そのため、インプラントによる治療ができず、総入れ歯になるケースもあります。
3.若い人が総入れ歯を選ぶ理由
安定性の高い入れ歯が作れる
若い年齢で総入れ歯を作るメリットは、顎の骨がしっかり残っているため、安定性の高い総入れ歯を作れることです。そのため、歯がない状態に比べてしっかり噛むことができます。また、噛み合わせが良くなり、口元が美しくなるなど外見上のメリットもあります。40代の若い女性でも総入れ歯を選ぶことがあります。さらに、保険適用の入れ歯はインプラントよりも低価格で作成できるため、経済的な負担も少なくなります。
お手入れが楽
インプラントは、歯を支える骨に直接ネジを埋め込むため、治療後も定期的に通院して歯医者さんでメンテナンスを受ける必要があります。多くの歯医者さんがインプラントの故障に対して保証をしていますが、その条件としてメンテナンスを受けることが求められることが多いです。また、インプラントのデメリットとして、自分でのメンテナンスが必要で、管理が大変という点もあります。
一方、総入れ歯は取り外して自分で洗うだけなので、メンテナンスの手間が少なくて済みます。定期検診も口の中の検診と同じ頻度で済むため、それほど手間には感じないでしょう。
口元が綺麗になる
総入れ歯にすることで、口元の骨格がしっかりして綺麗になるという美容面での利点があります。特に、笑顔が崩れず美しく見えるため、総入れ歯を選ぶ女性も多くいます。
治療に要する時間が少ない
総入れ歯の治療は、最短で2週間、最長で2カ月で完了します。総入れ歯は、装着後の違和感を歯医者さんと相談しながら調整し、患者さん一人ひとりに合うものを作ります。何度か通院する必要がありますが、インプラントのように手術を必要とする治療法と比べて治療期間が短いため、仕事で忙しい女性にもおすすめです。
4.若くても違和感なく総入れ歯を使うには
なるべく床が薄いものを選ぶ
総入れ歯の厚みによって、違和感の大きさが変わります。保険適用の樹脂製の総入れ歯は厚みがあるため、違和感を感じることが多いです。一方、保険適用外の金属製の土台を使用した総入れ歯は薄く、違和感が少ないため、気になる方は薄い総入れ歯を選ぶと良いでしょう。
ズレが起きにくいものを選ぶ
総入れ歯は、樹脂や金属の土台で支えられていますが、しゃべったり食べたりすると土台がずれることがあり、違和感を感じることがあります。この悩みを解消するためには、歯を支えていた骨に磁石を埋め込み、磁石で入れ歯を支えるマグネットデンチャーがおすすめです。マグネットデンチャーは土台がないため、ずれることがありません。
ほとんどが保険適用外となるので注意
保険適用の樹脂製総入れ歯を選ぶと、費用を抑えて作ることができます。しかし、ゴールドやチタンなど違和感が少ない総入れ歯を選びたい場合は、保険適用外となり費用が高額になるため注意が必要です。事前に歯医者さんと相談することが大切です。
医師とのカウンセリングはしっかり
違和感が少ない総入れ歯を作りたい場合は、どの種類が自分に合っているか、保険適用されるか、価格はどのくらいかについて、歯医者さんにしっかり相談しましょう。また、総入れ歯を作ってすぐに違和感がないものができるわけではありません。歯医者さんと相談しながら調整することで、自分に合った総入れ歯になります。
5.まとめ
総入れ歯の原因は虫歯や歯周病だけではありません。総入れ歯にはエステティックデンチャーという考え方があり、人工歯の色や形、並べ方によって見た目が大きく変わります。入れ歯の役割は、咀嚼機能や発音機能、容貌の回復、そして残った歯や粘膜の保護です。
また、歯周病や虫歯を防ぐためには、日頃のケアが重要です。セルフケアだけでは完全に防ぐことはできないため、歯医者さんで定期検診を受け、専門的なケアで歯垢や歯石を除去し、歯周病や虫歯のリスクを減らしましょう。

監修医
飯田 尚良先生
飯田歯科医院 院長
経歴
1968年 東京歯科大学 卒業
1968年 飯田歯科医院 開院
1971年 University of Southern California School of Dentistry(歯内療法学) 留学
1973年 University of Southern California School of Dentistry(補綴学・歯周病学) 留学
1983年~2009年 東京歯科大学 講師
現在に至る
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