「もしかして歯周病かも」と思っていても、すぐに歯科医院に行く人は多くありません。忙しい、面倒くさい、など理由は様々ですが、そんなとき考えるのが「薬で治らないかな?」ということでしょう。
薬を飲むだけで歯周病を治すことができるという治療法は本当に存在するのでしょうか。そこで、ここでは歯周病と薬との関係についてお伝えします。歯周病をきちんと治すためには、どのような治療が必要となるのか正しく知っておきましょう。
この記事の目次
1.薬を飲むだけで歯周病は治せる?
40歳以上では5人中4人が歯周病であるといわれており、国民的生活習慣病ともいえる歯周病は、薬を飲むだけで治せるのでしょうか?
歯周病を根本的に治す薬はない
結論からいうと、歯周病を治す薬というものは、今の時点では開発されていません。そしておそらく今後も開発されないでしょう。
歯周病にともなう歯茎の腫れや出血、違和感などをおさえるために薬が処方されることがありますが、根本から治療するようなものは存在しないのです。あくまで治療の一環として、歯周病にともなって生じる症状を一時的に緩和ないし治めるために薬は副次的に用いられます。
抗生物質は歯周病に効かないのか?
歯周病の原因はプラーク(歯垢)に潜んでいる細菌ですが、これらの細菌はお互いに結びついて細菌のコミュニティである「バイオフィルム」を作り出します。歯周組織が、このバイオフィルムの中の歯周病菌関連菌によって破壊されることで、歯茎の腫れや出血などが起こります。つまりバイオフィルムを取り除かない限り、歯周病を治癒することはできないのです。
抗生物質を服用して口の中にいる細菌を死滅させてしまえばいいのではないか、と思われるかもしれません。ところが、バイオフィルムがバリアとして働いて、内部にいる細菌群まで薬が到達しないのです。そのため、バイオフィルムを除去するにはブラッシングやスケーリングで機械的に破壊・除去するしかないのです。
歯周病治療で使用する薬はある
歯周病の治療には薬はまったく効果がない、というわけではありません。歯茎の腫れをはじめとした歯周病の症状をおさえるための対症療法として薬を用いることはありますし、歯周病治療で外科手術を行う際にも感染を予防したり、疼痛に対する鎮痛のために薬が用いられます。
ただし、薬の服用だけで歯周病を治療することはありません。基本となる正しい歯磨きを徹底するのはもちろん、歯に付着したプラークや歯石を取り除く治療や溶けてしまった骨を再生させる外科的治療などを行ったうえで、補助的に薬を使用します。
2.歯周病を治す薬がない理由
歯周病を治す薬がない理由として、以下の2つが挙げられます。
歯周病菌は完全には解明されていないから
歯周病の原因となっている「歯周病菌」については完全に解明されていないのが現状です。歯周病に関与している菌は十数種類と推測されていますが、複数の菌がさまざまな形で関与しているため、どの菌が「歯周病菌」であるかを明確に断定することはできていません。
また、わたしたちの口の中には、歯周病菌以外にもさまざまな菌が存在しています。食べ物や飲み物、空気などを取り入れる口には次から次へと多種多様な菌が入ってきます。それらの菌すべてが必ずしも悪い菌とは限りませんし、口の中にいる菌すべてを薬で死滅させるのは現実的ではないと言えます。
歯周病菌がバリアを形成しているから
前述したバイオフィルムは、マトリックス(基質)に包まれています。このマトリックスがバリアとして働くため、薬の作用は菌まで届かないのです。歯磨きで取り除けなかった菌は歯石となって歯にくっつきます。そこにさらに菌が付着していき、菌の塊がつくられていくのです。歯石になってしまうとふだんの歯磨きでは除去できません。
このように歯周菌はバイオフィルムを形成して、自分たちの身を守りながら歯にこびりついているのです。薬で歯周病菌を一時的に減らすことはできるかもしれませんが、完全に死滅させることはできない状態になっているのです。
3.歯周病の基本の治療法とは?
バイオフィルムの除去
歯周病を治療するためには、菌の塊であるバイオフィルムを取り除く必要があります。菌を殺す薬を用いてもバリアまでは破壊できないので、歯医者さんでスケーラーという特別な器具を使って取り除いてもらう必要があります。
また、歯磨きだけでは歯周ポケットにたまった歯垢まで落としきれませんから、定期的に歯医者さんで除去してもらう習慣もつけましょう。
毎日の丁寧な歯磨き
歯医者さんでバイオフィルムを落としてもらったら終わりというわけではありません。丁寧な歯磨きを毎日きちんと続けて歯垢を落とすようにしなければ、またバイオフィルムが形成されてしまいます。
歯医者さんでブラッシング指導を受けてみるのもいいでしょう。
生活習慣の改善
歯周病は、生活習慣病のひとつです。睡眠不足や疲労がたまるような不規則な生活や栄養バランスの乱れた食生活などで体の免疫力が低下すると、歯周病菌は繁殖しやすくなるので注意してください。
そのため、歯周病を予防するためには生活習慣の見直しが不可欠です。十分な睡眠時間を確保し、食事内容も栄養バランスをよく考えて、よく噛んで食べ、食事後は正しい歯磨きをするように心がけましょう。
4.まとめ
歯周病は薬の服用だけで完全に治すことはできません。歯周病菌を薬の力で一時的に減少することはできるかもしれませんが、歯周病を治すためには歯医者さんで専門の治療も受ける必要があります。「薬だけで歯周病を治療できる」と勘違いして薬だけに頼ってしまうと、歯周病を悪化させる恐れもあるので気をつけてください。
歯周病治療には、歯科での適切な治療を受けたうえでの毎日の歯磨きが必要です。そして、定期的に歯医者さんの検診を受けることも忘れないでください。

監修医
古橋 淳一先生
あおぞら歯科クリニック本院 理事長・院長
経歴
2000年 広島大学歯学部 卒業
2000年~2001年 医療法人社団 不二見会 ふじみ歯科医院浦安診療所 勤務
2001年~2005年 医療法人社団 不二見会 ふじみ歯科医院南行徳診療所 勤務(所長)
2005年 あおぞら歯科クリニック 開院
2007年 医療法人社団爽晴会 設立・理事長就任
2010年 あおぞら歯科クリニック鎌ヶ谷 開院
2012年 あおぞら歯科クリニック新館 開院
2015年 なないろ歯科クリニック 開院
2017年 あおぞら歯科クリニック下総中山 開院
現在に至る
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