誰にでもなる可能性がある?唇裂と診断されたらどうしよう

誰にでもなる可能性がある?唇裂と診断されたらどうしよう

もしも妊娠検診でお子さんに先天性の異常があると告げられたら、誰でも初めは不安な気持ちになるでしょう。しかし、この病気は適切な治療を受けることにより、成長してからも支障のない生活が送れるようになります。日本では500人にひとりの割合で発症するといわれている口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)。これは、唇や上あごに裂け目が入ってしまう先天性の形状異常の総称です。その原因はよくわかってはいませんが、症状にも個人差があり、裂け目の場所や形状によって治療方法が異なります。今回は口唇口蓋裂のひとつである「唇裂」の症状や治療方法、知っておきたい治療費の助成制度などについてご説明します。

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この記事の目次

1.どんな病気なのか、症状や原因を知ろう

唇裂はどうして起こるの?原因は?

赤ちゃんがお母さんのお腹の中で成長する過程の中で、初めは唇も上あごも割れていますが、妊娠2~3か月ごろから自然につながり、顔の原形ができてきます。このとき何らかの問題でうまくつながらないまま、唇が裂けた状態で生まれてきてしまう病気が唇裂です。
これまで、原因は薬などの化学物質、お酒やたばこ、放射線、ウイルスによる病気、遺伝的な要素の影響などが考えられてきましたが、発生原因を特定するにはいたっていません。現段階ではさまざまな要因が複雑に絡み合って発生すると考えられています。

個人差がある、さまざまな唇裂の症状

口唇裂には、上唇に少しくびれがあるだけの軽い症状から、上唇たけでなく、歯茎まで割れ、鼻も大きく変形している重い症状まで個人差があります。
上唇の片方だけに破裂がある片側口唇裂と、上唇の両側に破裂がある両側口唇裂とに分類され、さらに、破裂が外鼻孔(鼻の穴)にまで達していない不完全口唇裂と、破裂が外鼻孔の中まで及んでいる完全口唇裂とに分類されます。
そして、破裂が歯肉にまでおよぶ唇顎裂(しんがくれつ)、口蓋にもおよぶ唇顎口蓋裂なども挙げられます。それぞれの症状によって治療方法や治療期間が異なるため、できるだけ早期に歯医者さんに相談し、適切な治療を進めましょう。

発生頻度はどのくらい?

口唇裂・口蓋裂の赤ちゃんが産まれる確率は、およそ500人にひとりと言われています。生まれつき発症する病気の中で、口唇裂は発症する確率が高い病気の1つとして知られています。唇裂の多くは片側性の左側に発生する頻度が高く、破裂の度合いは個人差があり、人それぞれです。
また、生まれて初めてわかるのではなく、妊婦検診の際のエコー検査でわかる場合がほとんどで、遺伝子や羊水検査ではわかりません。さらに、赤ちゃんが成長していくにつれて、虫歯、中耳炎、副鼻腔炎といった合併症や、言語発達の障害が起こりやすいと言われています。

2.唇裂と診断されたらどうすればいいの?

授乳はうまくできるの?

赤ちゃんが生まれ、まずお母さんと最初に直面する問題は授乳ではないでしょうか。このとき哺乳を助けてくれるのが、口蓋床(こうがいしょう、ホッツ床・哺乳床ともいう)と呼ばれるマウスピースのような器具です。哺乳障害を改善するほか、露出した鼻の粘膜を守り潰瘍ができにくくする働きや、術前のあご矯正を目的とし装着されます。
症状が唇裂のみに発症し、また哺乳障害が生じていない場合は使われることはありませんが、上あごと唇の両方に裂け目がある口唇口蓋裂や、上あごに裂のある口蓋裂の場合は使用が望ましいとされています。

お子さんの成長を考えながら手術を検討

口唇裂の手術は、赤ちゃんが全身麻酔や手術に耐えられるような身体になってくる生後3か月前後、体重で言うと6キログラムを超えたあたりで行われます。
まず、唇裂を閉鎖し整える形成手術を行い、その後の成長過程を見ながら、小学校に上がる前や成長が止まる年齢のころ、必要に応じて唇や鼻を再度整える手術を行う場合があります。

虫歯予防や歯並びの対策も忘れずに!

口唇裂や口蓋裂の場合、破裂の範囲や種類によって歯が斜めに曲がって生えてしまい、歯並びや噛み合わせが悪くなることがあります。ほかにも歯の質が弱い、歯の数が少ない、多いなど、歯に関わる問題は多く、なかでも気をつけたいのが虫歯です。
お子さんのお口の中が磨きにくい形状をしているため、歯ブラシが奥まで届かない場合は、筆状の小さなブラシを使うとよいでしょう。自分で歯みがきができるような年齢になっても、しばらくはお母さんの仕上げ磨きを続けてあげてください。
また、歯並びについては、将来生えかわる永久歯の並びを整えることを目標に、5~6才ころから矯正治療によって改善していきます。子どものお口の中は、成長と歯の生えかわりとともに変化していきます。
まずは歯医者さんで定期的な検診を受ける習慣をつけてみるといいかもしれませんね。

3.治療費は?知っておきたい助成制度

乳幼児医療助成制度

子どもが受けられる社会保障で代表的なものといえば、乳幼児医療助成制度が挙げられるでしょう。これは、乳幼児が医療機関で診察や治療を受けた際に、その費用の一部または全額を自治体が助成してくれる制度です。
生後3か月ころに行われる口唇裂の治療は、この制度を利用することができます。助成の負担額や、対象となる年齢は各自治体により異なるため、各市区町村のホームページなどで確認しておきましょう。
また、乳幼児医療費助成制度を利用するためには、赤ちゃんの健康保険の加入が必要ですので忘れずに準備しておきましょう。

自立支援医療制度(育成医療)

体に障がいや病気のある18歳未満のお子さんなら、治療しなければ将来的に障がいが残る可能性があり、手術などの治療をすることで障がいが改善できる見込みのある場合は、公費で医療費の一部が負担される制度です。
唇顎口蓋裂による歯科矯正などは、この制度が適用されます。治療を開始する前に、お住まいの市区町村窓口で必要な書類をそろえて申請します。提出が遅れると、医療費の助成が受けられなくなる場合があるため注意が必要です。
また、育成医療は健康保険に加入していること、さらに指定された病院を利用することが条件のため、育成・更生医療指定機関であるかあらかじめ歯医者さんに確認しておくといいでしょう。

自立支援医療制度(更生医療)

身体障害者手帳を持つ18歳以上の方に対して、身体上の障がいを軽くしたり、機能を回復させる手術などの医療費を助成する制度です。唇顎口蓋裂による、咀嚼機能障がい、咀嚼機能喪失を持っていると適用されます。
この制度を利用すると医療費が原則1割負担となり、世帯収入などにより月額負担上限額も設定することができます。
また、育成医療と同じく、更生医療も指定された病院を利用することが条件のため、あらかじめ歯医者さんに確認しておきましょう。

4.まとめ

お子さんが生まれてから大人になるまで、長期にわたって治療が続く可能性のある口唇裂。症状にも個人差があり、治療も複雑で、多くの専門医師チームによる治療が行われます。
しかし、この病気は適切な治療を受けることで支障のない生活を送ることも十分に可能です。また、見た目も気にならないほどきれいに整えていくことも可能でしょう。
そのためにも、まずは定期的な検診による経過観察を通じて歯医者さんと相談しながら、お子さんにとって適切な時期に必要な治療を進めていきましょう。

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監修医 高橋貫之先生

本町通りデンタルクリニック

【経歴】
2003年 大阪歯科大学 卒業
2003年 大阪歯科大学 大学院歯学研究科博士課程 入学
2007年 大阪歯科大学 大学院歯学研究科博士課程 修了
2008年 大阪歯科大学 勤務
2016年 大阪歯科大学(歯周病学 助教)退職
2016年 本町通りデンタルクリニック 勤務
現在に至る。
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