この記事の目次
1.赤ちゃんの舌が短いと起こる問題
「舌が短い」症状は「舌小帯短縮症」
舌を前に出そうとすると、舌小帯(舌の裏にあるヒダ)がつっぱってハート型に見えたり、動きにくかったりします。
これらは舌小帯が短いことが原因で起こる症状のひとつです。
舌小帯が生まれつき短い状態は、舌小帯短縮症(ぜつしょうたいたんしゅくしょう)と呼ばれます。
重度の舌小帯短縮症の人のなかには舌が気道(※)を邪魔するため、食べ物や唾液を飲み込むときに呼吸がしにくくなってしまう人もいます。
※気道:呼吸をするときに、吸い込んだ空気が通る通路のこと
母乳をうまく飲むことができず授乳に時間がかかる
赤ちゃんがおっぱいを飲むとき、乳首を舌と口蓋で挟むのが一般的です。
しかし、舌が短いと動かせる範囲が狭くなるため、お母さんの乳首を上手く挟むことができません。
加えて、舌が短いと気道の入り口を塞いでしまい、呼吸することが難しくなります。
・舌を動かせる範囲が狭い
・舌が気道を塞ぐ
これらの症状が原因で、舌小帯短縮症の赤ちゃんは、母乳を上手く飲むことができません。
寝るときに反り返る、寝相が悪い、寝つきが悪い
鼻と口をつなぐ気管が舌で塞がれると、スムーズに呼吸をすることが難しくなります。
呼吸自体はできても、十分な空気が体内に入らず、苦しくなることもあります。
そのため、舌小帯短縮症の赤ちゃんは、自然と口呼吸になりがちです。
口呼吸の状態で眠ると、いびきをかく、呼吸が止まる・乱れる、夜中に何度も目が覚める、といった症状に悩まされます。
これらの症状は、舌小帯短縮症の赤ちゃんだと以下のように現れます。
・寝ている間に反り返る
・寝相が悪くなる
・眠りが浅い
・音に敏感
・あまり寝ない
泣き声が弱い、滑舌が悪い
舌小帯短縮症の赤ちゃんは、舌が短く、舌先で口蓋に触れることが難しい状態です。
そのため、口をあまり開けず、泣き声が小さく弱くなることがあります。
また、舌の短さは、発音にも関係します。
舌小帯短縮症だと、滑舌が悪くなりがちです。
2.舌小帯短縮症について
舌小帯短縮症の原因
舌小帯短縮症は、先天的な理由でおこります。
赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるときの、成長過程での異常とされています。
通常は、胎内で様々な器官が形成されていく中で、赤ちゃんの舌と舌顎の粘膜は分離します。
舌小帯短縮症は、胎内で粘膜が分離しないことで発現します。
生後は舌の障害として残り、舌の成長過程で問題を抱えることが多いとされています。
先天的な舌小帯短縮症の発症原因は、わかっていません。
唇の怪我といった、後天的な要素で舌小帯短縮症になる場合もあります。
3.舌小帯短縮症に見られる2つの症状タイプ
◆舌を動かすことが難しいタイプ
・舌の上が平ら
・舌小帯の長さが0.5cm未満
・下顎の前歯の裏にある歯茎に舌先がくっついて舌を動かすことが難しい
・舌が口蓋に触れない。
◆発音障害を引き起こすタイプ
・舌小帯が舌の先まで続いている
・舌小帯が舌先を引っ張るため、舌先がハート型に見える
・発音が正しくできない
舌小帯短縮症の赤ちゃんが引き起こす恐れのある問題
舌小帯短縮症の赤ちゃんは、以下の問題を引き起こしやすくなります。
・哺乳障害
舌が上手く動かないため哺乳しにくい
・発音障害(医学用語では、構音障害)
舌先が口蓋に触れないので、カ行、サ行、タ行、ラ行がうまく発音できない
口をあまり開けず小さな声になる
・心理的影響
正しい発音ができず、人と話すことに自信を持てなくなる
発音障害に対して、強いコンプレックスを持つ
4.舌小帯短縮症の治療法
機能訓練
舌小帯短縮症が原因で起こった発音障害に対する治療方法として行われることがあります。舌を動かすトレーニングを行うことで症状が和らぎ発音しやすくなる人もいます。
舌小帯の手術
舌小帯を切り取る外科処置を行います。舌の活動範囲を広げることで、呼吸や舌の動きを改善することができます。
外科処置の方法は、部分麻酔をしながらハサミで舌小帯を切り取ったり、レーザーを活用して切除したりと医院ごとによって異なります。手術は症状や治療方法により保険が適応されない場合があるため、手術を行う際には事前に医師に確認してみてください。
手術後の対応について
舌小帯の切り取り手術を行った後は、一週間前後で抜糸を行います。また、舌小帯は切り取るため手術を行ったとしても再び癒着してしまう可能性もあります。そのため、再癒着防止のためにストレッチを行ったり、手術時に特殊な形成手術を行ったりすることがあります。
手術が必要かは自己判断せず医師に相談を
症状の程度、治療法、手術が受けられるかどうかは、赤ちゃんよって異なります。
親御さんだけで悩まずに、歯科口腔外科や小児科の先生に相談して決めましょう。
5.舌小帯短縮症の赤ちゃんが抱える問題への対処法
タ行、ナ行、ラ行の発音が苦手
タ行、ナ行、ラ行の発音は、舌を上顎につけて発音する音です。
舌が短いと、これらの音を出すのが苦手になります。
3歳ごろに機能訓練を開始した場合、5歳ごろまでに改善が見込めることがあります。
改善されない場合は、手術を検討することになります。
発音改善のための機能訓練とは、舌や唇の動き、呼吸の練習をすることです。
機能訓練で改善が見られれば、発音障害が現れないことがあります。
多くの場合、機能訓練を受ければ、発音障害は5歳ごろまでに改善されるとされています。
そのため、大人になってもこれらの音の発音が苦手、ということは考えにくいでしょう。
食べ物をボロボロこぼす
食べ物を口に入れたとき、人間は、前歯で噛み切り、舌を使って奥歯へもっていき、さらに細かくかみ砕くという行為をおこなっています。
これらの一連の動作は、通常なら意識しないでおこなうことができますが、舌が短いと、上手くできないことがあります。
そのため、食事のたびに、口から食べ物をボロボロこぼしてしまいます。
赤ちゃんの場合、舌の長さに関係なく、食べ物をこぼすことはよくあります。
しかし、4歳を過ぎても頻繁にこのような症状が出ているなら、注意が必要です。
5歳まで様子を見て、それでも症状が変わらないようであれば、手術を検討する必要があります。
赤ちゃんの舌が短いのは成長と共に改善される?
赤ちゃんのときに舌が短くても、成長とともに一般的な長さになることがあります。
呼吸が困難だったり、食事が取れなかったりするほどの重症でなければ、お医者さんと相談の上、様子を見守ることも多くあります。
発音障害や摂食障害であっても、重度の問題を抱えているわけではないならば、訓練で改善させることが可能です。
赤ちゃんの症状が重度か軽度かは、自己判断せず、お医者さんに相談しましょう。
監修医 貝塚 浩二先生からのコメント
4歳ぐらいでの舌小帯の手術は、小帯の付着異常が明らかならば保険も適用されます。
ただ、手術の前後に舌の動きのトレーニング(筋機能療法ともいいます)を行う場合には、自費になります。
また、全身麻酔で手術する場合には、入院に関する費用が自費になることもあります。
どこの部分が自費なのかを確認されるといいでしょう。
舌は動きのあるものなので、舌下部の手術をお子さんの協力なしに行うことは困難です。
手術そのものは比較的短時間で行えるものなので、麻酔や出血管理(縫合)などの処置を適切に行えれば危険の少ない治療です。赤ちゃんが1歳になる前だと、まだ痛みをあまり感じてないといわれていますが、レーザーによる治療の場合では、麻酔なし、縫合なしでできる場合が多く、短時間で行えます。