MODOON DENTAL（モドゥーンデンタル）

大学は元々薬学部に入っていたのですが、先を考えた時に自分にはもっと人と関わる仕事のほうが向いているな、と思いまして、同じ大学の歯学部に進級試験を受けて入り直しました。

歯学部では研究を続けるという道もありました。大学3年から口腔生理学という学問の研究でとてもお世話になった、お兄さんのように慕っていた先生がいまして、4年間、研究についてさまざまなことを楽しく学ばせていただきました。6年生の時の研究発表ではメイン演者にさせていただき、今でも先生と奥さまと時々お食事に行かせていただいたりと、長いお付き合いをしています。

研究というのは一つのことをコツコツ積み上げていくというもので、もちろん4年間とても楽しかったのですが、私は人ともっとたくさんお話をしていくほうが楽しく、それにやりがいを感じるんですよね。人と関わってコミュニケーションを取り、他愛のない話をしながら自分の好きなことをしていく…そんな仕事のほうが好きだったんです。だから、自分には今の歯科医師が向いているのかな、と。今でも気に入った仕事につけて良かったなと思っています。

人と話すことは、とても楽しいです。いろいろな患者さまがいらっしゃいますが、お互いのコミュニケーションさえあればさまざまなことが円滑に進みます。それは患者さまとのトラブルが生じた場合も同じです。前に勤めていた時の理事長にも、私は「トラブルが少ないね」と言われていました。私にとってそれは自然なことではありましたが。

どうなんでしょう…それは患者さまが決めてくださることじゃないかな、と思います。別の先生には、私は「白黒をはっきりさせる」と言われたことがあります。私は曖昧な答えはしないようにしていますので。私ができるか、できないか、これが良いか、悪いか、できないことに対してチャレンジはしないようにしています。

もし「これはやってみよう」ということがあれば、患者さまと、とことん話さなければいけないですね。分からないものって、きっとあるはずなんですよ。「この治療の後にこの薬を使ってみよう」「新しい素材を使ってみよう」など、医療であればあります。そういうことは患者さまとコミュニケーションが取れてないとダメですね。「こういう風にするけどどうしますか？」「どうしようか？」って、お互いに二人三脚で進んでいく治療ってあると思うんですよ。重いケースであればあるほど特に。

場合によっては、「そうかもしれませんね」と、曖昧にできるかもしれません。でも患者さまは、医療について素人ですからいつも答えを求めていらっしゃるんだと思います。グレーな答えを返すのではなく、答えを出せない時には「できること、できないこと」をちゃんと見極めておくというのは必要なのかなと思います。患者さまとのカウンセリングの際に、私はどちらかというと主語、述語の順で話します。「これはできる」「これはできない」。その後に「でも、こういうことがあって、こういうこともあります」と修飾語がつく話し方をします。だから分かりやすいと言っていただけるのかもしれません。

大学卒業後は、横浜や東京のクリニックに勤務していました。１日に100人もの患者さまがいらっしゃるクリニックで、新人の私は治療だけで手一杯でした。自分が求めていた患者さまとのコミュニケーションを取る、ということができず、治療ではなく作業になってしまい、それが嫌になって結婚を機にシドニーに行きました。

しかし、自分ができることはやはり歯科医師しかなく、シドニーに行っても結局私は歯科医師の道を進みました。壁にぶつかり環境を変えたわけですが、実はシドニーの恩師も同じような経験をしていたんです。恩師はすごく勉強される方で、開業して、お子さまも３人いて、周りから見ると順風満帆だったのですが、39歳の時に「なぜこの仕事をするのか分からなかくなった」と閉院して、イギリスまで家族と船で渡って、キャンピングカーでヨーロッパを回っていたらしいんです。でも、恩師も私と同じように「自分にできることは歯科医師しかない」と気付き、イギリスの大学に入って４年研究した後に、改めてシドニーで開業したところで私と会いました。

とても謙虚な先生で、私のほうがずっと年下なんですが「君のほうがずっと新しい知識を持っているかもしれない。僕が年を取ってきているから間違っていることをするかもしれない。だから、間違ったことをやった時にはすねを蹴りなさい」と言われたんですね。でも、「患者さまの前で僕が間違ったと言わないでね」とお茶目なこともおっしゃるような方でした。そこで多くのことを学ばせていただいた後に、日本に帰国してインプラント専門の医院で勤め、この地に開業しました。

シドニーでも試験を受けたのですが、全部問題が英語なんですよね。日本の試験は病名もすべて日本語ですから。だから、恩師が学生時代に使用していた40年前の教科書をすべていただいて、必死に勉強しました。その時に、そのすべての本は、私がこれまで勉強したものとあまり変わっていないことに気が付いたんです。薬の種類が変わったとかはありますが、コンセプトのベースは変わってないと思いますね。そこが大事なことなんだと改めて教わりました。

機械が増えて便利になったのはありますが、根本は同じ。だから、大学の勉強がどれだけ大切かを改めて知りました。どんなものを重ねて、どんな技術が増えたとしてもベースがないとできませんから。それを学べたことはとても良かったと思います。

滅菌の徹底ですかね。私が触れるような場所はすべて滅菌し、滅菌した後にテープを張ります。テープは患者さまごとに毎回取り換えるようにし、ユニットもその都度すべて拭きあげています。滅菌は患者さまに病気などの感染予防のためでもありますが、スタッフも含め自分たちの身を守ることにもつながります。

患者さまによっては、大きな病気をしていたとしても、問診時におっしゃらない方がいらっしゃいます。私がいたシドニーなんかでは、大きな病気を持っていたとしても平気でおっしゃいますが、日本はそういう文化ではないんです。自分が病気であることを隠してしまう。

私たちは患者さまとスタッフ、両方を守る義務があります。滅菌作業はかなり大変ですが、スタッフも理解してくれて一緒に頑張ってくれているのでとても助かります。

最近なかなかできていないんですが、好きなことは、お皿に絵を描くこと。それと、自然が好きで、海よりは山派の人間ですね。緑が大好きで山登りをしたんですが、私は山登りは苦手でした。ですが、スキーが好きで、いつかは山で雪が降るとこに住みたいなとは思っています。たまに息子にスキーに連れて行ってもらったりもするんですが、身体が動かなくて息子が滑っているのをただ眺めてますね。あとは、無類の犬好きです。プードルを飼っているのですが、甘やかしすぎて犬がわが家の王様のようになってますよ。

それと、旅行も好きですね。若いころからプラプラ各国を回ったりしていました。特に良かったのはポルトガルです。たまたま私が色んなことにぶち当たっているころに行ったことも記憶に残っている理由なんだと思います。ポルトガルには、ユーラシア大陸最西端のロカ岬という岬があるんです。そこには「ここに地終わり海始まる」と刻まれたすてきな碑が建っていました。その碑以外は本当に何もなくて、海だけで。でも、その時に「何もないことでステータス」とかそういったことは意味がないんだなと思う、一つの岐路になりました。今、もし長い休みがあればノルウェーに行ってオーロラが見たいですね。あとは、アイスランドの温泉、ブルーラグーンも行ってみたいです。私は都会があまり好きではないので、自然と星がきれいなところに行きたいですね。

患者さまがきちんと来てくれるためにはどうすれば良いのだろう、といつも考えます。やはり、皆さま忙しいですし、費用も決してお求めやすい価格とはいえません。私が歯科医師になったころは1割負担でしたので、山のように患者さまが来ていましたが、今は3割負担ですから、当時と状況が変わってきています。とても厳しい時代が来ていることを身に染みて感じます。

なぜかと言いますと「今日はいくらかかりますか」という質問を昔と違ってよく聞くようになったからです。そんな時代になっているということは、歯のケアをせずに歯をボロボロにしてしまう方がたくさんいらっしゃるということにもなります。ですが、そうなるともっとお金がかかってしまうんです。だから、一度来院したら3カ月や2カ月に1回、きちんと通ってメンテナンスを受ける。必要に応じて自由診療のものを使ったとしても、きちんとケアすることで長持ちするので、意外と保険診療より費用を抑えられることもあります。

ご自身の歯が、今どのような状態なのか知らない人もまだまだ多くいらっしゃいます。きちんとご自身の状態を知ることを患者さまにも心がけていただきたいと思いますし、私たちもどうすれば良いのか考え続け、それをお手伝いできる歯科医院でありたいと思っています。