【この記事の要約】
不正咬合とは:上下の歯が正しく噛み合わない状態を指し、出っ歯、受け口、開咬、交叉咬合、叢生、すきっ歯、切端咬合、過蓋咬合など様々な種類があります。
不正咬合の症状:口呼吸、口が常に開いている、食事の際に十分に噛んでいないなどが挙げられます。
不正咬合の原因:遺伝的要因、指しゃぶりや口呼吸、頬杖などの生活習慣、柔らかいものばかり食べるなどの食生活が挙げられます。
不正咬合の診断・検査:歯型模型の作成、レントゲン撮影、口腔内写真撮影、デジタルスキャンなどを組み合わせて行われます。
不正咬合の治療:ワイヤー矯正、マウスピース矯正、子どもの成長に合わせて行う小児矯正など、様々な方法があります。
不正咬合の予防:幼少期からの定期的な歯科検診、指しゃぶりや舌の不適切な位置の改善、正しいブラッシングと食生活の見直しが重要です。
不正咬合と間違えやすい症状・病気:歯周病など、他の口腔内疾患によって歯並びが乱れ、不正咬合のように見える場合があります。
不正咬合の治療を行っている診療科:矯正歯科、歯科口腔外科
1.不正咬合とは
不正咬合とは、上下の歯が正しく噛み合わない状態のことを指し、上下の歯列が上下方向や左右方向でずれている場合や、歯と歯の間に大きな空隙がある場合なども含まれます。噛み合わせには個人差が大きく、人によってはほとんど不自由を感じない程度の軽度なものから、食事や発音に支障が出るほど深刻なケースまで幅広く存在します。
もともと骨格が関係していることもありますが、子どものころの生活習慣や遺伝的要因によっても状況が変わり、成長過程でどのようなケアを受けるかによっても不正咬合の程度が左右されることがあります。
不正咬合の種類
不正咬合にはいくつかの代表的なパターンがあり、それぞれ歯並びの特徴が異なるため、適した矯正方法や治療期間にも差が出てきます。以下では、特に多くの人が抱えやすい不正咬合のタイプを挙げて解説します。
出っ歯(上顎前突)
いわゆる「出っ歯」と呼ばれる状態は、上の前歯や上顎全体が前方に突出している不正咬合です。見た目の印象が大きく変わるため、美容面での悩みにつながりやすいだけでなく、上唇が閉じにくいことから口呼吸の癖がつきやすく、喉の乾燥や風邪をひきやすくなるなどの影響も考えられます。原因としては指しゃぶりなどの幼少期の習慣や、顎の骨格自体が前方に成長しやすい遺伝的要因が挙げられます。治療の際は、顎の成長が盛んな子どもの時期であれば、骨格矯正の効果を期待しやすいため、早めの相談が重要です。
受け口(下顎前突)
受け口は、下顎が上顎よりも前に出ている状態を指し、「反対咬合」と呼ばれることもあります。見た目としては下あごがしゃくれているように見えるだけでなく、発音が不明瞭になりがちで、特定の音をうまく出せなくなることがあるのが特徴です。このタイプの不正咬合は、遺伝的な骨格の影響を強く受ける傾向があるため、成長期の段階から専門医が経過を観察し、適切な治療のタイミングを見極める必要があります。大人になってから矯正を検討する場合は、外科手術が必要になるケースもあるため、子どもの受け口が疑われるときは早めの専門相談が推奨されます。
開咬
前歯をかみ合わせた際に、上下の前歯が縦方向に大きく開いている状態を開咬といいます。見た目の問題に加えて、サンドイッチを前歯で噛み切れないなど、食事の際に不便を感じやすいのが特徴です。原因としては舌の位置や動かし方に癖がある「舌癖」や、口呼吸による顎や舌のバランスの乱れなどが挙げられます。お子さまの場合、指しゃぶりの習慣が長引いた結果として開咬になるケースも少なくありません。開咬は日常生活の中でも気づきやすい不正咬合の一つなので、「前歯がうまく噛み合わない」と感じたら、早めのチェックをしてみてください。
交叉咬合
左右どちらか一方の歯列だけが内側、あるいは外側にずれてしまうケースが交叉咬合で、左右非対称になることが多いのが特徴です。あごの関節や頬の筋肉に負担が偏ることで、食事の際に片側だけで噛む癖がついたり、顎の発達がゆがんだりする可能性があります。見た目の違和感が少ないこともありますが、放置すると顔の左右差が顕著になる場合や、顎関節症のリスクが高まる場合があるため、噛み合わせのゆがみに気づいた段階で矯正歯科を受診することが大切です。
叢生
叢生とは、歯が本来あるべき位置に十分なスペースがなく、密集して重なり合ってしまう状態を指します。生まれ持った顎の大きさと歯のサイズの不一致や、乳歯の早期喪失、さらには外傷などさまざまな要因が複合的に絡み合い、歯が理想的な配置からずれてしまうのです。このような状況は、単に見た目の問題にとどまらず、日々のブラッシングが難しくなることで虫歯や歯周病のリスクを高める原因ともなります。
すきっ歯(空隙歯列)
すきっ歯は、隣り合う歯の間に不自然な隙間が生じる状態であり、しばしば審美面での悩みの原因となります。これらの隙間は、遺伝的な要因や、歯が小さいにもかかわらず顎が大きい場合、あるいは幼少期の習慣(例えば指しゃぶり)など、複数の要素が関与して発生します。見た目の問題だけでなく、噛み合わせのバランスに影響を与えることから、場合によっては食事中の咀嚼効率にも変化が生じる可能性があります。
切端咬合
切端咬合は、上下の前歯が本来の噛み合わせ位置ではなく、歯の切端部分同士が直接接触する異常な状態を指します。こうした歯の接触は、噛む際に不均一な力が加わる原因となり、長期的には歯の摩耗や損傷、さらには歯周組織への負担といった問題を引き起こす恐れがあります。
過蓋咬合
過蓋咬合は、上の前歯が下の前歯に対して過剰に重なり、通常の噛み合わせを妨げる状態です。この状態は、顎の成長過程における不均衡や、遺伝的背景、さらには外的な影響などによって引き起こされることが多いです。過蓋咬合が進行すると、前歯に過大な力が集中し、歯の摩耗や歯肉の損傷、さらには顎関節への負担といった問題が生じるリスクが高まります。
2.不正咬合の症状
不正咬合の症状は、日常生活にさりげなく現れながらも、将来的な健康リスクを予感させるものです。まず、鼻呼吸が十分に行われず、代わりに口呼吸が習慣化してしまうと、口内の乾燥や粘膜の状態悪化、さらには歯並びの乱れを引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
口呼吸
口呼吸は、鼻での呼吸が何らかの理由で制限される場合に、無意識のうちに口を通して行われる呼吸法ですが、その結果、口内環境が乾燥してしまい、唾液の働きが低下することで、歯や歯茎に悪影響を及ぼすことがあります。こうした状態が長期間続くと、自然な歯の成長が阻害され、咬み合わせの乱れを生む原因となるため、日常生活の中で意識的に改善策を講じることが大切です。
口がポカンと開いている
次に、常に口がポカンと開いている状態が観察される場合、これは無意識のうちに行われる口呼吸の延長線上にある可能性が高く、顔や顎の骨格形成にも影響を与える恐れがあります。口が閉じた状態で自然な姿勢を保つことが本来の健康な咬み合わせの基盤であるにもかかわらず、習慣的に口を開けた状態が続くと、顔全体のバランスが崩れ、将来的には見た目の変化にも繋がるため、早期の対応が求められます。
食事のときによく噛んでいない
さらに、食事中にしっかりと噛まずに食べてしまう習慣がある場合、これは咀嚼機能の低下を招くとともに、不正咬合の一因となる可能性があります。十分に噛むことは、食べ物を細かく砕き、消化を助けるだけでなく、歯と顎の筋肉を適切に鍛える役割も果たしており、これが不足すると歯並びや噛み合わせに悪影響を及ぼすことがあるため、食事の際の意識的な咀嚼が重要です。
3.不正咬合の原因
不正咬合の原因は、見た目の問題だけでなく、日常生活のなかで意外に影響を受けやすい習慣や食生活とも深く結びついています。歯並びや顎の骨格は生まれつきの要素もあるため、完全に防ぐのは難しいかもしれませんが、生活習慣や食生活を見直すことである程度の予防が可能です。ここでは、遺伝的な側面から生活習慣、そして食事に関係する要因まで順に紹介します。
遺伝的要因
不正咬合の原因として、遺伝的に歯や顎の大きさ、骨格の形が影響しているケースがあります。親から子へと受け継がれる骨格的な特徴によって、歯の生えるスペースが狭くなったり、下顎が前に出やすかったりといった問題が起こりやすくなるのです。ただし、遺伝的に不正咬合の傾向があるからといって、必ずしも重度の症状に発展するわけではありません。たとえ骨格的な要因があったとしても、子どものうちに適切な予防矯正や習慣改善を行うことで、症状の進行を食い止めたり、軽度のまま抑えたりすることは十分に可能です。
生活習慣(指しゃぶり、口呼吸、頬杖など)
生活習慣のなかには、日常的に続けていると歯並びや顎の位置に悪影響を及ぼすものがあります。幼少期に多い指しゃぶりは代表例で、本来なら乳幼児期に自然とやめていくはずの指しゃぶりが長期化すると、前歯が前方へ傾斜してしまったり開咬を引き起こしたりする可能性があります。また、口呼吸が習慣化していると、唇で歯を支える力が働かなくなるため、歯列のアーチが崩れたり顎の発達がゆがんだりするリスクも高まります。
さらに、頬杖をつく癖があると、無意識のうちに片側の顎ばかりに圧力がかかり、顔全体や歯列の左右バランスが崩れてしまう恐れがあります。これらの習慣は大人になってからも続く場合があり、デスクワーク時の姿勢やスマホ使用時の顎の位置などにも要注意です。
食生活
歯や顎の骨格は、食事のしかたや内容によっても変化します。子どもの時期は特に、しっかり噛むことが顎の発達を促し、歯が正しい位置に並ぶためのスペースを確保するうえで重要です。柔らかいものばかりを好んで食べていると、顎の筋肉が十分に鍛えられず、歯列が狭くなる傾向が強まります。一方で、適度に繊維質の多い食材や噛み応えのある食事を意識的にとることで、成長期の顎や口周りの筋肉をバランスよく使えるようになるのです。
4.不正咬合の検査・診断
不正咬合の検査・診断は、視診や触診だけでなく、以下のような多角的な方法を組み合わせて行われます。
• 歯型模型の作成:口腔内の歯並びの詳細を把握するために、印象採取を行って模型を作成します。
• レントゲン撮影(パノラマ、セファログラムなど):歯や顎骨の構造を可視化することで、成長の方向や骨格の異常を分析します。
• 口腔内写真撮影:治療前後の比較や、細かい歯の状態を記録するために使用されます。
• デジタルスキャン(光学スキャナー):近年では、3Dデータを用いた歯列シミュレーションも一般的です。
これらの検査を基に、矯正治療の必要性や適切な治療方針が決定されます。
5.不正咬合の治療
不正咬合の治療は、ワイヤー矯正やマウスピース矯正をはじめ、子どもの成長に合わせて行う小児矯正などさまざまな方法があります。それぞれの方法にはメリットとデメリット、そして費用帯にも違いがあるため、自分のライフスタイルや予算、歯の状態に合わせて最適なものを選ぶことが大切です。ここでは一般的な治療方法をまとめていきます。
ワイヤー矯正
従来から多くの人に利用されてきたワイヤー矯正は、歯にブラケットという小さな装置を直接装着し、その間をワイヤーで結ぶことで歯列を少しずつ整えていく方法です。適用範囲が広く、複雑な症例にも対応できるのが大きな特徴で、骨格的な問題を伴う不正咬合でも比較的高い矯正効果が期待できます。また、長い臨床実績があるため、症例数が多く、医師側も比較的予測しやすい治療経過をたどりやすいといわれています。
一方で、ブラケットの見た目が気になる方にとっては、口元に装置がついていることがストレスになることがあります。最近では透明や白色のブラケットなど目立ちにくいタイプも増えていますが、それでも全く装置が見えなくなるわけではありません。
マウスピース矯正(インビザラインなど)
近年人気が高まっているマウスピース矯正は、透明の薄いマウスピースを定期的に交換しながら歯を動かしていく治療法です。装置がほぼ目立たず、取り外しが可能なので、食事や歯磨きの際に大きな制限がないというのが最大のメリットです。インビザラインをはじめとする複数のブランドがあり、デジタルスキャンを用いて歯列の動きをシミュレーションしながら治療を進めるため、ワイヤー矯正に比べて痛みや違和感が少ないという声もあります。
ただし、治療効果をしっかり得るためには、マウスピースを1日20時間以上装着するなどの自己管理が必要です。装着時間を守れないと予定通り歯が動かず、結果的に治療期間が長引いてしまうことがあるので注意しましょう。
小児矯正(予防矯正)
お子さまの場合は、成長期に合わせて歯や顎を理想的な位置に誘導していく「小児矯正(予防矯正)」が効果的です。顎の骨がまだ柔らかく、歯の移動がしやすいタイミングで治療を開始できれば、永久歯が生えそろうまでに大きく歯列を乱すことなく成長をサポートできる可能性があります。具体的には、ムーシールドやプレート型の装置を夜間だけ装着するケースや、生活習慣の改善を指導することで顎の発育を適正に保つケースなど、多様なアプローチが存在します。
6.不正咬合の予防
不正咬合の予防は、日常生活の中での小さな習慣の積み重ねが将来的な健康維持につながることを示しています。幼少期から定期的な歯科検診を受け、成長過程における歯並びや噛み合わせの変化に注意を払うことは、問題の早期発見に直結します。例えば、指しゃぶりや舌の不適切な位置、さらには長時間の不自然な姿勢が習慣化することが、後の不正咬合の原因となるため、こうした習慣を早い段階で見直すことが推奨されます。
また、正しいブラッシングや食生活の改善も、歯と歯茎を健康に保ち、自然な咬み合わせを維持する上で重要な役割を果たします。これらの予防策は、患者自身が日々の生活の中で実践することで、大がかりな治療を必要としない健康な口腔環境の形成に大いに寄与するのです。
7.不正咬合に似ている病気(症状)
不正咬合に似ている病気(疾患)は、口腔内全体の機能や健康に多岐にわたる影響を及ぼす疾患の結果、歯の並びが乱れ不正咬合となっている場合があるので正確な鑑別が極めて重要です。例えば、歯周病においては歯茎の炎症や出血、歯の動揺といった症状が現れ、結果として咬み合わせに悪影響を及ぼすケースが多く、不正咬合との鑑別が必要となります。
8.この病気・疾患に対応している歯科の診療科目
歯科口腔外科、矯正歯科
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監修医
植村 考雄先生
渋谷サクラステージ徳誠会歯科・矯正歯科 東京エリア統括院長