口内の癌は、切除する範囲が大きいほど術後の見た目にも影響するものです。こう聞くとちょっと怖いものですが、口腔癌は早期に発見しやすいものです。
この記事では、口腔癌の1つである歯肉癌の特徴や、初期、中期、末期の症状、基本的な治療法などについて詳しくご紹介いたします。
口内の癌は、切除する範囲が大きいほど術後の見た目にも影響するものです。こう聞くとちょっと怖いものですが、口腔癌は早期に発見しやすいものです。
この記事では、口腔癌の1つである歯肉癌の特徴や、初期、中期、末期の症状、基本的な治療法などについて詳しくご紹介いたします。
歯肉癌は、口内にできる口腔癌の一種で、その名の通り歯肉にできる癌です。口腔癌の中では、舌癌の発症率が4割程度でもっとも高く、歯肉癌はそれに次いでおよそ2割程度の発症率となります。
お口の中の癌はちょっと怖い気がしますが、口腔癌はすべての癌の中では発症率がおよそ1%から3%程度で、癌の中では珍しいものといえます。
歯肉癌には、上顎の歯肉にできる上顎歯肉癌と、下顎の歯肉にできる下顎歯肉癌があります。歯肉癌のできる箇所によって、その特徴も変わってきます。
上顎にできる歯肉癌は、上顎の歯槽骨(歯を支える骨)に浸潤しやすく、さらに進行すると、鼻腔や頬粘膜などにも広がっていく傾向があります。転移に関しては、下顎歯肉癌と比べると、頸部のリンパ節への転移は起こりにくいものとなっています。
下顎の歯肉癌は、早い段階で歯槽骨に浸潤する傾向が高くなります。上顎歯肉癌と比べると、下顎歯肉癌の方が発症率が高いもので、特に、下顎の臼歯の歯肉にできる確率が高くなります。また、上顎歯肉癌と比べると、頸部のリンパ節に転移するリスクが高い癌となっています。
歯肉癌のステージは、癌の大きさによる分類と、転移の状況による分類によって細かく定義されていますが、大きなくくりでは下記のような4つのステージに分類されています。
2センチ以下の大きさでリンパ節の転移なし。
2センチ以上4センチ以下の大きさで、頸部リンパ節に転移なし。
4センチ以上の大きさで、頸部リンパ節に3センチ以下の転移あり。
腫瘍が近接組織に浸潤し、3センチから6センチの頸部リンパ節への転移あり。
ここでは、歯肉癌のさまざまな時期の症状についてご紹介します。
初期には自覚症状などもありませんので、もし以下のような状態を見つけたら、歯科口腔外科で相談してみましょう。
口内炎は、長くても2週間程度で自然に治ってくるものです。しかし、最初は口内炎と思っていても、2週間以上治らないものであれば、念のため歯肉癌でないかチェックを受けるべきです。
お口の中で歯ぐきの表面の一部が帯状に白くなっている場合(角化している)があります。 痛みなども伴わない場合もあり、見逃しがちではありますが、これは白板症と呼ばれる病気であることがあります。白板症は全てが悪性ではありませんが、一部のものは前癌病変と言われて、悪性の癌に進行して行く場合もあり、その区別は組織の一部を取って病理検査をしなければ判別出来ません。
口内炎のような状態を放置すると、できものの周囲が赤くただれたようになります。これは、びらんと呼ばれる状態で、口腔癌全般にも見られる特徴の1つです。
中期では、ただれを伴うとともに、患部の表面が盛り上がってきます。指などで触ってみるとしこりのように固い感触があるものです。
患部が盛り上がらず、逆にただれながらえぐれていくケースもあります。これは先に書いたびらんから潰瘍に進んだ状態です。こちらもしこりと同様に、歯肉癌の表面の特徴の一つです。
中期の症状でも痛みが出始めてきますが、末期においては、さらに強い痛みになってきます。 これは癌が組織の深い部分に浸潤して、神経組織を侵しはじめてきているからです。
ただれやえぐれ、しこりと中期で見られた症状のある患部から出血も見られるようになります。
歯肉癌では、首のリンパ節に転移しやすく、末期では頸部リンパ節に転移し、しこりのような腫れが見られるようになります。風邪や扁桃腺などの炎症でリンパ節が腫れる時のような痛みはさほどない場合が多いです。
歯肉癌でも、上顎にできる場合と下顎にできる場合には、その治療法が若干違ってきます。癌の外科的な切除が基本ですが、上顎の方が術後の後遺症や機能的な障害が大きくなる可能性が高く、それを回避するために治療方法も多少異なってきます。
上顎の歯肉癌のは、鼻腔などへ癌が広がっていくことがあり、術後の後遺症を考慮すると、大きく切除することを控える傾向にあります。ある程度の外科手術に加えて、放射線治療や化学療法を組み合わせるケースが多いです。
また、ステージによって切除する範囲が変わり、早期では、歯肉や上顎の部分切除にとどまるものの、重度の上顎歯肉癌では、上顎の全摘出および頭蓋底や眼球などの摘出に及ぶものもあります。
下顎歯肉癌の場合には、主に外科手術が主体となります。これは、下顎には抗がん剤が入りにくく、放射線も効きにくいとされているからです。
軽度に場合は、歯肉の部分切除のみ、又は直下の顎の骨の部分切除程度でとどまりますが、中〜重度の場合には下顎骨の片側の離断、又は全摘出にも及ぶ可能性があります。
歯肉癌の発症率は低いものなのでいたずらに心配する必要はありませんが、特に、治りにくい口内炎がある場合には、早目にチェックを受けることが大切です。
歯肉癌を含め口腔癌は、専門の医師にとっては見た目でも分かりやすいものです。初期症状の段階で対処できれば、全顎摘出というような大手術にいたるリスクも少ないものとなります。異常を自覚していなくても、年に1度は口腔癌検診を受けることが理想です。
視診や触診で癌の疑いがあるところの細胞を採取して、癌細胞かどうかを見極めるのが病理検査です。口腔癌のほとんどは組織の表面に発症するもので、粘膜の表面の上皮をこすり取るように採取して、その細胞を検査することで癌の判別ができます。
癌の病巣がどの程度の範囲に広がっているか、リンパ節に転移がないかを、大まかに調べるのがエコー検査です。超音波を当てて病巣の及んでいる範囲をチェックします。また、レントゲン検査も同様に、癌の範囲や転移の状態を知るのに用いられます。
X線を使って組織を輪切りのように映像化して、その断面の状態を把握する検査です。エコー検査やレントゲン検査よりも、浸潤や転移などのより詳細な状況を把握することができます。また、治療方針を決定する際に正確な情報を与えてくれるものとなります。
X線を使ったCT検査は、特に骨などの硬い組織に有効なのに対し、磁気を使ったMRI検査は、軟組織(骨以外の柔らかい組織)の詳しい状態を知るのに有効です。歯肉癌では、腫瘍の位置関係や大きさ、形状を正確に知るのに役立ち、こちらも的確な治療プランを定めるのに役立ちます。
口腔癌は他の癌の中でも比較的初期に発見しやすいものではありますが、他の部位の癌と異なり、外科的手術である程度完治しても、顔貌などの外見や、話す、食べる、飲み込む…など口が持つ重要な機能を低下させ、QOL(Quality of Life)そのものを低下させてしまいがちであるため早期の受診が必要です。
歯肉癌の発症率は低く、良性腫瘍の場合もあるので、必要以上に恐れることはありませんが、もし治りにくい口内炎があれば早期にチェックすることをおすすめします。
監修医
遠藤 三樹夫先生
遠藤歯科クリニック 院長
経歴
1983年大阪大学歯学部 卒業
1983年大阪大学歯科口腔外科第一講座 入局
1985年大阪逓信病院(現 NTT西日本大阪病院)歯科 勤務
1988年遠藤歯科クリニック 開業
現在に至る