歯の治療の中でも高額な費用がかかるインプラントですが、その分メリットも多く、たくさんの方が治療を受けています。
しかし、インプラントの「痛み」が気になり、治療を受けるまでに踏み出せない人も多いのではないでしょうか。歯医者=痛みを連想して、治したいのになかなか足が向かないという人は少なくありません。
ここでは、インプラントの痛みに関する情報をまとめ、痛みに不安のある方にもわかりやすいように伝えていきます。どんなメリットとデメリットがあるのか、治療に踏み出すための基礎知識をおさえておきましょう。
1.ずばり、インプラント手術は痛い?
1-1 インプラント治療中はまったく痛くない!
インプラント治療とは、簡単にいえば顎の骨に穴を開けて、歯を植え付けるような手術を行います。そのため、「痛そう」と思うのですが、手術中は麻酔を使うため、痛みはありません。
もし、痛みを感じるとしたら、最初に打つ麻酔の注射。ただし、少しチクッとする程度で激しい痛みがあるわけではありません。
基本的には1本あたり20〜30分で終わるため、手術時間に合わせた麻酔がきちんと処方されていれば大丈夫。インプラント手術は痛みを感じることはほとんどないと思って問題ありません。
1-2 手術中に麻酔が切れてきたら痛くなる?
手術中に麻酔が切れてきてしまうこともあります。麻酔が切れれば、痛みを感じることもあるかもしれません。
でも、このような場合、通常は麻酔を追加して痛みを感じないようにカバーしていきますので、基本的には心配ありません。
確かに、奥歯などの治療をする際には麻酔が効きにくいという特徴があります。そのため、少し痛みが出ることも実際はあるのです。しかし、この場合も麻酔を調整するので、治療中にずっと痛みに耐えなければならない…といった事態にはなりません。麻酔について不安要素がなくなるよう、事前にしっかりと医師とコミュニケーションを取りましょう。
1-3 痛みが不安なら、こんな治療方法も!
通常の痛み止めの場合でも、麻酔薬を人肌に温めたり、より細い注射針を使ったりすると、麻酔の効きがよくなることがあります。
麻酔の効きは人によっても違うものですので、心配があるのは歯医者さんも良く分かっているもの。
相談すれば快く対応してくれる歯医者さんもあるので、痛みに弱い方はぜひ、遠慮せずに相談してみましょう。
1-4 とにかく痛みが不安ならこの方法で
インプラント治療では、一般的には麻酔注射をしてから手術を行います。でも、それでは本当に痛みが発生しないのか不安という方は多いです。
痛みに対する不安が強い方は、「静脈内鎮静法」を用いて手術することもできます。この「静脈内鎮静法」は、痛みをより緩和させる方法ですので、通常の麻酔注射よりも安心できるのです。
この「静脈内鎮静法」は、半分寝ているような状態を作り出すため、より痛みを感じにくくなります。
全身麻酔に比べれば身体への負担も少ないため、インプラントをする治療本数が多い場合、手術が長時間に及ぶ場合には、この静脈内鎮静法を利用するといいかもしれません。
1-5 「意外と痛くない」という患者が多数
実際にインプラント治療をした人の中には、「意外と痛くなかった」と答える人が少なくありません。
歯を抜くから痛いだろう、親知らずや抜歯を経験したけどとても痛かった…。そんな前情報や過去の経験があるために「インプラントも痛い」と思われがちですが、実際に治療を受けた人でも、痛みを強く感じた人はほとんどいません。
インプラントは歯科治療の中ではまだ歴史の浅い治療方法です。そのため、実際にインプラント治療をした人が周囲に少ないため、どうしてもその実態が一般に浸透していないだけなのです。
2.インプラント治療後も痛いってホント?
2-1 インプラントの手術後、多少の傷みはある
インプラントを埋め込んだ手術後、数日は痛みが続くのが一般的です。インプラント治療では切開したり、縫合したりという手術を行いますので、どうしても麻酔が切れた後は患部が痛みます。
また、インプラントをする本数が多かったり、抜歯の直後にインプラント治療を行う方法をとったケースでは、通常よりも痛みが強く感じられます。
痛みの感じ方は人それぞれですし、治療方法や治療の範囲にもよりますので、一概にすべての人が痛むとはいい切れませんが、このような傾向があることは覚えておきましょう。
人によっては、インプラント手術を行って1週間から10日過ぎに痛みが発生してくることもあり、インプラントの術後の痛みはかなり個人差があります。
2-2 痛み止めが効かないとつらい?
インプラントの治療後は、麻酔が切れて痛みが発生するため、痛み止めが処方されます。服用薬や座薬など、痛み止めの種類はさまざまですが、どんな歯医者さんでも必ず痛み止めを処方されるので心配はありません。
しかし、インプラント治療を行った人の中には、特に強い痛みを感じる患者さんがいるのも事実。その場合は痛み止めが効かないケースもあります。
あまりに痛みがひどい場合は、薬の量を増やしたり、傷口を消毒するなどすれば、痛みが緩和されることが多いようです。
もしインプラント治療後に痛み止めが効かない場合は、手術を受けた歯医者さんに相談して、必要な治療や対処をしてもらいましょう。
2-3 インプラントは抜糸時の痛みも
インプラントは外科手術ですので、歯茎を縫う行為が発生します。そのため、手術後しばらくしたら抜糸を行わなければいけません。
このとき、チクチクとした痛みが発生することがあり、その痛みが辛いと感じる人もゼロではありません。
あまりに痛みがつらい場合は、患部に塗ることで痛みが緩和される「表面麻酔」をすると痛みは緩和されます。
3.痛みを比較!インプラントと他の治療
3-1 インプラント治療は虫歯の治療よりも痛い?
虫歯の治療は多くの人が子供の頃から経験している治療です。まれに虫歯治療をしたことがない人もいますが、長く生きていればいるほど、虫歯治療の痛みを経験した事がある人はいるでしょう。
実はインプラントの治療は、虫歯治療と比べて見ると、さほど痛みを感じないというケースが多いです。実は虫歯の治療の方が痛みを感じることが多いので、インプラント治療は比較的痛みの少ない治療だということができます。
3-2 抜歯よりも痛い?インプラント治療の痛み
インプラントと抜歯の痛みは同程度と表されることが多いようです。ただし、抜歯の場合は膿があったり、腫れがあったり、その他の口内トラブルの症状が同時に表れていることが多い傾向にあります。
痛くて仕方がないから抜歯するといった治療方針であることが多いため、とくに痛みを感じやすいのです。
一方、インプラントは口内トラブルがない健康な状態で治療を行うため、インプラントの方が抜歯などと比べると、よっぽど痛みはありません。
3-3 親知らず治療よりもインプラントは痛い?
痛みや腫れが発生する親知らずは、痛みが発生してから歯医者さんへ駆け込む人も多いです。そのため、インプラントと比べれば、親知らずの痛みのほうが痛みは強いもの。
また、親知らずは生え方に問題があることが多く、抜歯に時間がかかり、苦しむ時間が長くなります。
親知らず自体が奥の奥にある歯であるため、麻酔が効きにくく、痛むことも多いです。
一方でインプラントは計画的に治療を行っていきます。基本的には痛みなどが発生していない状況から手術を行うため、手術日まで痛みを我慢しなければならない…ということも少ないです。
難しい親知らず治療をする場合と比べれば、格段にインプラントの方が痛みを感じないといいます。
4.インプラント方法によっても痛みは違う?
4-1 自分の骨を同時移植するケース
インプラント治療では、自分の骨をインプラント箇所に移植する方法を取ることがあります。実はインプラントを埋め込む手術よりも、骨を採取する手術の方が痛みが強いのです。
また、この手術方法の場合は手術部位が2箇所になるため、痛みを感じる部分が増えてしまいます。
痛みをできるだけ抑えたい場合は、できるだけ近いところの骨を移植するなどし、口のあちこちに痛む部分ができないように工夫をしなければいけません。
4-2 人工の骨を同時移植するケース
インプラントでは、人工の骨をインプラント箇所に移植するケースもあります。この場合、手術部位は1箇所でいいため、痛みが発生する箇所を減らすことができます。
ただし、移植手術の際には歯茎の切開が必要になるため、腫れなどが生じて痛みを感じる可能性はゼロではありません。
4-3 歯茎を同時移植するケース
インプラントをする人の中には、歯茎の厚みが足りないなどの問題を抱えている患者さんもいます。その場合、上顎の内側から歯茎を移植して厚みを補い、歯茎が下がった際などにインプランドが露出しないような治療を行います。
インプラントの部分は痛みが少ないですが、移植する歯茎を取った部分が痛みやすく、数日は痛みや違和感などが生じます。
4-4 サイナスリフトを同時に行うケース
上顎の骨に厚みが足りない場合は、人工の骨を使って骨の厚みを補い、インプラントをするケースがあります。
サイナスリフトとは、上顎洞に隣接する歯肉をはがし、骨補填材を埋入することでインプラントを埋め込むのに必要な骨の厚みを作り出す技術のことです。
手術方法は、以下の通りです。
- 上顎洞側壁(上顎の歯肉の側面部分)を切開し、歯が生える根本の骨を露出する。
- 露出した骨に10〜30mm程度の穴を開け、上顎洞粘膜を露出させる。
- 上顎洞粘膜を剥がしたところに移植骨を埋め、そこから3ヶ月以上かけて骨が自分の骨になるまで待つ。
上記の方法で薄くなっていた骨を補い、骨が自分の骨になったら、そこではじめてインプラントを施すことができます。
他の場所から骨を採取する必要がないため、痛みは少ないように思われますが、骨を歯茎に移植する際に穴を開けなければならず、切開部分も広いため、痛みや腫れが発生しやすくなります。腫れは3〜4日はかかることが多いです。
4-5 ソケットリフトを同時に行うケース
上顎の骨に厚みが足りない場合、インプラントを埋め込む穴から人工の骨を入れ、足りない厚みを補うソケットリフトという施術を必要とすることがあります。
ソケットリフトの手術方法は、以下の通りです。
- インプラントをする歯の位置に、ドリルで穴を開けます。
- 穴を開けたら、穴と同じ大きさくらいの棒を差し込み、トンカチで釘を打ち込むようにして軽く叩き、上顎の骨と上顎洞粘膜の組織を上へと持ち上げます。
- 持ち上げたら、そこへ移植骨を入れ、インプラント用のネジを埋め入れます。ネジだけの状態で3ヶ月ほど放置します。
- 3ヶ月経ったら、人口の歯をかぶせます。
この場合は、別の箇所から骨を採取することもなく、サイナスリフトのように別途穴を開けることもありません。そのため、歯を削る量が少なく、痛みを最小限に抑えられます。ただし、すべての人がソケットリフトを選択できるわけではなく、歯槽骨という歯を支えている顎骨の部分が極端に少ない場合などは、サイナスリフトを選ばなければいけません。
5.自分でもできる!痛みを抑える対処法とは?
5-1 なるべく患部を冷やし続ける
術後の痛みを軽減させるためにも、なるべく患部は冷やし続けたほうがいいです。あまり冷たくしすぎると循環障害を起こし、傷の治りが遅くなることがあるので、氷などではなく、水で絞ったタオルで冷やすのが良いでしょう。手術から1日以上経ったら、そこからは温めたほうが痛みが緩和されます。
5-2 鼻をかむ際には要注意
強く鼻をかむと、その衝撃でインプラントの手術部分に悪影響があることもあります。鼻と口は近く、鼻をかめば骨伝いに振動が伝わります。できるだけやさしく鼻をかみましょう。
5-3 食べ物は柔らかく負担のないものを選んで
食べ物を噛み砕く衝撃が治療部分に悪影響を与えないよう、おかゆや豆腐などの柔らかいもの中心の食事をするといいでしょう。ヨーグルトやプリンなど、ほとんど噛まないでもいい食事にすると、歯茎に負担がかかりません。
5-4 タバコ、お酒は我慢しましょう
タバコやお酒は、意外と患部を刺激するものです。そのため、術後は禁煙・禁酒を徹底してください。患部を刺激すれば、患部が腫れたり、膿んだりといったトラブルが発生しないとも限りません。
6.まとめ
インプラントの痛みは、術中はほとんど感じないものです。手術後は痛みを感じますが、それでも痛み止めが処方されるので、深刻に心配する必要はないでしょう。痛みに弱い方は、とにかく手術前に歯医者さんに相談してください。痛みを軽減する手術方法を選んだり、薬の量を調整してくれる等、きちんと対応してくれるはずですよ。
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監修医飯田尚良先生
飯田歯科医院 院長
■院長経歴
1968年 東京歯科大学 卒業
1968年 飯田歯科医院 開院
1971年 University of Southern California School of Dentistry(歯内療法学) 留学
1973年 University of Southern California School of Dentistry(補綴学・歯周病学) 留学
1983年~2009年 東京歯科大学 講師
現在に至る