Q. 開業までの経緯を教えてください。
歯科医師を目指すようになったのは高校生の頃でした。歯が痛くて歯科医院を受診したのですが、その時、歯科医師という職業に対して、すごく清潔でクールな印象を受けたんです。それで、“将来、こういう仕事についてもいいかな”と。
また、元々幼い頃から職人に憧れのようなものを抱いていたんです。人間国宝の刀工だとか、テレビなどでそういう人たちのことを見るのが好きでしたね。彼らの技はもちろんなのですが、仕事に向かう姿勢だとか、生き方だとか、そういったところに魅かれていました。ですから、心のどこかで手に職をつけたいと思っていたのでしょう。入れ歯治療が好きなのも、“ものづくり”の要素が強いせいかもしれませんね。
Q. かなり昔から訪問診療を行ってらっしゃったとのことですが、当時、訪問診療を始めた経緯というのを教えてください。
当院が訪問診療を開始したのは2005年です。1992年の開院から10年以上が経ち、地域に根付いた歯科診療所として次にできることは何かを考えたとき、その答えの一つが訪問診療でした。吉祥寺周辺は比較的若い世代の方が多いのですが、やはり高齢化の進行は顕著で、通院が難しい患者様も増えつつありましたから。
──長く訪問診療を続けられる中で、やりがいを感じるのはどんな時ですか。
当然のことながら、治療をした結果、しっかり食べられるようになった患者様の姿を見る時ですね。入れ歯を作った患者様に、治療から半年ほど経った後、「しっかり食べられるようになり、体重も増えました。」という感謝のお手紙をいただいたこともあります。そういう時は本当に嬉しいですね。
Q. 逆に苦労話などがあれば教えてください。
まず、院内で診療するのとは勝手が違いますから、慣れるまでの1年ほどは大変でしたね。例えば、入れ歯の場合、一般の方ならある程度“自力で合わせる”力が働くのですが、寝たきりの方などの場合は、それがありません。より良い仕上がりが求められるんですね。その精度を上げるために、改めて講習会などにも通いました。でも、そのおかげでより患者さん思いにあわせた入れ歯治療ができるようになったと思っています。
あとは、やはり天候に左右されることでしょうか。雪とか台風とか。雪がひどい時などは止むを得ずキャンセルしてもらうこともあるのですが、それでも“入れ歯が痛いので、どうしてもきてほしい”なんていうこともありました。車は出せないし、バスも走っていないので、スタッフと皆で長靴を履いて出かけたこともあります(笑)。また、お天気が良くても対象範囲も広く、日によってはバタバタすることも多いです。でも、それも皆様から望まれてのことですから、弱音は吐いていられませんね。
Q. 最近医院をリニューアルしたとお伺いしましたが、、、
開院から20年以上が経過して、施設や医療機器の老朽化も進んでいたこともありますが、地域の高齢化に対して訪問診療という形で応える一方で、今後は若い世代の方を中心に予防医療にも力を入れていく必要があると考えたからです。 リニューアルもそれに沿った形で行いました。
例えば、診療ユニットには各々仕切りを設けて患者様のプライバシーを保てるように配慮しています。また、歯科用CTも新たに導入するなど、虫歯の再発防止や予防のために欠かせない、より緻密な検査・診断が可能な体制を整えました。さらに、院内では次亜塩素酸の殺菌水を使用するなど、衛生管理も徹底しています。
Q. 予防に力を入れるようになったきっかけはなんでしょうか。
訪問診療にやりがいを感じる一方で、 “できるだけ長く自分の歯で食べていただきたい”という観点から見ると、高齢になった時点での治療は難しい部分が多いのです。痛みなどのストレスや感染などへの抵抗力が低下していることに加え、例えば心疾患などを抱えていれば治療にはさまざまな制限が課せられることになります。
また、例えば、自分で歯が磨けなくなると、歯のつけ根のほうから虫歯になって歯が折れるというお年寄り特有の症状があります。そうすると、歯茎の中に根だけ残ります。それはそれで後から総入れ歯などにする場合には安定していいのですが、いざ、高齢になってから大きな入れ歯を入れると、なかなか慣れずに苦労される方が多いんですね。そういった患者様に多く出会うと、やはり、若いうちからしっかり予防をして、健康な歯を維持することの大切さを改めて感じるわけです。
Q. 医院として今後の展望などがあればお聞かせください。
訪問診療と予防歯科に取り組んでいくことはもちろんですが、その他の部分もさらにレベルアップを図って、トータルバランスのいい歯科医院にしていきたいと思っています。そのためにも、私自身まだまだ勉強を重ねていかなければと思っております。ただ、自分一人の力ではどうしても限界がありますから、大学で新しい知識を学んできた若い先生方からも情報をもらうなどしながら、さらに進化していきたいと思っています。
Q. 先生にお趣味などがあればお教えください。
座禅をすることです。30歳頃に始めたのでもう長いですね。禅を組むと心が空っぽになって安らぎます。それに、お坊さんが好きなんですよ(笑)。私は曹洞宗のお寺に通っているのですが、禅僧は話が上手な人が多いので、法話を聞くのも楽しみなんです。