なかやま歯科クリニック

僕は相手のことを知れば知るほど大切にしたくなるので、患者さんと仲良くなり、より深く知り合いたいと思っています。そうすることで、患者さまのご納得のいく結果では飽き足らず、より患者さまにご納得いただける結果を目指す意欲がわいてくるんですよ。
患者さんと血の通った関係を築ければ、おのずと心のこもった治療ができますし、それはお口の中に器具を入れる瞬間や一つひとつの工程で患者さんにもしっかり伝わるはずなんです。

歯医者さんが苦手な方って、とにかく多いじゃないですか。だから、そういう方でもギリギリ我慢して通える歯科医院をどうしてもつくりたかったんです。「ここならなんとか行けるかな」と思ってもらえるような、明るくて、温かみのある、最後の砦ともいえる歯科医院ですよね。
ですから、患者さんとは歯に関することだけじゃなく、世間話をしながら治療することもあります。診療台ではケーブルテレビを流しているので、患者さんと会話する良いきっかけにもなっています。

平塚市が運営する障がい者歯科診療所というのがありまして、心身に障がいのある方や先天的な病気のために一般の歯科医院（一次医療機関）で診ることが困難な方を診ているんですね。一般の歯科医院の歯科医師がこうした方々を診るために必要な研修を受け、そういう専門知識が求められる保健センターなどの二次医療機関で診療に当たるわけですが、そこでの経験は、いま当クリニックで行っている訪問診療にものすごくリンクしています。
障がい者歯科診療所でも訪問診療でも共通するのは、会話が困難な患者さんが多いため、ご家族も一緒に、いろいろ相談しながら対応していく必要があること。場所が異なるだけで、内容はほとんど同じなんです。そういう意味で、障がい者歯科を担当した経験は、訪問診療にとても役立っていますね。

脳梗塞を患った方で当時55歳。かぶせ物がとれて僕が紹介されたのですが、ほとんど意思の疎通が図れない状態でした。すでに何人もの歯科医師が来ては来なくなり、という状況もあって、ご家族も半ば諦めていらっしゃいました。
とにかくかぶせ物の対処どころでなく、歯ブラシを口の中に入れようとするだけで拒否される。それでも諦めずに3カ月通い続けた結果、だんだん拒まれなくなり、僕が口元に指を当てたときだけ、じっと動かずにブラッシングさせてくれるようになったんです。ご家族も、うれし泣きされていました。それから2年ほどずっと口腔ケアのみを行っていたのですが、「これならかぶせ物の治療も可能かも」と思い、やってみたらできたんです。
この経験は僕にものすごい衝撃を与えました。意思疎通がほとんど図れない患者さんでも、どんなに暴れてしまう患者さんでも、ほとんどの治療はできるのだと痛感したんです。そして、勝手に限界を決め込むことはやめよう、諦めずにやれる方法を考え続けようと思いました。
もう一つの思い出深いエピソードは、「ご飯が食べられないのですぐ来てほしい」と呼び出された患者さんで、訪問診療の日ではなかったものの駆けつけて入れ歯を調整したんです。残念なことに、この方はその2日後に亡くなられましたが、ご家族から「最後の最後にちゃんとご飯を食べて送り出すことができました。ありがとうございました」というお手紙を頂戴できました。16年経ったいまも大切にもっています。

僕は治療だけでなく、相談にのることも歯科医師の重要な仕事だと思っています。いま通っていらっしゃる歯科医院の先生はきちんと話を聞いてくれますか？　納得がいくまで説明してくれますか？もし、不満や不安があるのなら、諦めずにご自分に合った歯科医院を見つけていただきたいと思います。そして、そこをかかりつけの医院として長く通っていただきたい。
さまざまな症例で、歯科医師が提供したいと思う医療や技術は、必ずしも患者さんの要望と一致しません。そのギャップを埋めるには、やはり伝えること、理解してもらうことが必須だと僕は思っています。ですから僕が良好だと判断した治療でも、患者さんが躊躇される場合には、まず正しく理解し、納得のいく結論を出せるよう粘り強く説明します。でも、そこまで説明を尽くすことはせず、患者さんが希望しない治療はやらないという方針の歯科医院もあります。どちらが良い悪いではなく、ご自分に合っているほうを選択すればいいのです。ちょっと語弊があるかもしれませんが、行きつけのラーメン屋さんのように、自然と足が向く、しっくりくる歯科医院を見つけてください。