いなだデンタルオフィス

実は、わたしは千葉県には縁もゆかりもない人間なんです。この医院も、もともとは歯学部時代の同級生のお父さんが開業していたものでした。実子が研究の道へ進んだため、そちらには継がせないことになり、昔からよく家に遊びに行っていたわたしに声をかけてくれたんです。先代が体調をくずされたこともあって、お話をいただいてから1カ月半で開業しなくてはならず、最初はなかなかあわただしかったですね。ここで働くようになって、船橋に対するイメージはだいぶ変わりました。
最初は、ちょっと寂しい町だなっていう印象が強かったんです。でも、この辺の方々は、この界隈では路線も多く、栄えた駅だと言っていて、実際にそうだということがわかりました。今では、そのわりにそこまで発展しすぎていないところが、かえってこの町の魅力になっていると思います。どこかアットホームな感じがして、実家周辺の雰囲気に近いものも感じ、とても愛着がわいています。そういえば、梨の名産地だということも当初は知りませんでした。

お向かいにある「じゅう屋」という居酒屋や、「雪ん子」というラーメン屋が好きでよく行きます。特に「じゅう屋」では、商店街の方々と週に２，３回は飲んでいますね。居酒屋を通してどんどん友達が増えていくんですよ。中年の方々中心ですが、楽しいですよ。
今は戸建ての住宅も少なく、道で会って挨拶をすることも少ない世の中じゃないですか。だから、同じ町に住んでいても、親しくなる機会って少ないですよね。でも、居酒屋で出会った方々が、町で見かけると声をかけてくれるんです。こういう経験って、とても新鮮で楽しいですし、アットホームな雰囲気ただよう船橋だからかもしれませんね。

今は、だいぶ真面目になったと言われますね。大学時代はお酒が好きで、しょっちゅう仲間たちと遅くまで飲んでいました。とはいえ、歯学部は授業をおろそかにしていては進級できないので、学生時代もそれなりに必死でした。でも、やはり実際に開業して歯科医師として働く今のほうが、はるかに大変ですね。
毎日、とにかくさまざまな患者さまがいらっしゃいます。今日初めてお会いするのに、すでに怒っていらっしゃる方もいれば、優しく親し気な方もいます。一人ひとり違う患者さまに接し、その中で特に合った治療をしていかなくてはなりません。そのためには、患者さま全員に対して、とことん話を聞くことが重要だと考えています。自分の話をちゃんと聞いてもらえなかった患者さまは、フラストレーションを抱えてしまい、それがトラブルにつながってしまうこともあります。患者さまのお話をしっかりとお聞きしたうえで、悩みや不安を抱えていることに対し、歯科医師の立場から意見をお伝えします。
そして、最終的にいくつかの治療パターンの提案をしていきます。治療中も、各過程において説明しながら行うようにしています。このようなていねいな対応を積み重ねているうちに患者さまとの信頼関係ができあがっていくのだと思います。

家族全員で通ってくださる患者さまは、やはり印象深いですね。最初は奥さまが通ってくださって、そのうちご主人やお子さまも通われるようになったご一家がありました。さらに、「おじいちゃん、おばあちゃんがこういう状態でみてほしいけど、病院へは行けない」というご相談があったので、「そういう場合は訪問での診療もできるんですよ」とお伝えし、結局、家族全員の治療にあたることになったんです。
これは、とてもうれしかったですね。おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなったときはお葬式に行かせてもらいましたし、最初は大学生だったお子さまが、今は教師をされているとか、そういうお話を聞こえるのも、つきあいをしてきたからからこそ。こういう患者さまとのお付き合いはとても新鮮ですし、貴重な経験ですね。
当院へ初めていらした患者さまは、最初は緊張していても、次第にリラックスしてくださる方が多い印象です。受付スタッフの対応が優しくていねいなので、緊張がとけるのかもしれません。でも、わたしからスタッフに患者さまへの接し方を指導するということはしていないんです。
こんなことを自分で言うのもなんですが、わたしが患者さまへ接している態度を見て、そこから自然と心がけてくれているようです。当院には、患者さまへの接し方について、明確なマニュアルのようなものはありません。それゆえに、いたらない部分もあるかもしれませんが、杓子定規のようなご対応はしないようにしています。そのせいか、受付でしばらく立ち話をしていかれる患者さまもいるほど、アットホームな雰囲気ですね。