古賀テクノガーデン歯科

子供の頃から母親に「手に職を持ちなさい」と言われていました。大正生まれの人でしたから、子供を将来飢えさせないためにもそれがより良い道だと考えていたのでしょう。まず、そんな母の思いが歯科医師という専門職を選んだ背景にあると思います。
それから、専門職の中でも医療系の仕事というのは、非常に幸せなことに一生懸命やれば患者さまに“ありがとう”と感謝していただける仕事なんです。そういう部分に魅力を感じたこともきっかけの一つですね。

以前は患者さまに「歯がよくなって、人生が変わった！」と喜んでいただけることが、私にとっても喜びであり、生きがいでもありました。本質的にそれは今も変わりません。でも、最近は少し違った面に惹かれているところもあるんです。例えば、私がインプラント治療を始めてから27年が経ちますが、その頃に治療した患者さまが今でも定期的なメンテナンスでご来院されます。もう20年以上経っている方がたくさんいらっしゃるんです。そういう方々の健康な姿を見ることは、歯科医師冥利に尽きるのかなと思いますね。

それから、例えばインプラント治療は歯のない部分に義歯を作製するので目立つわけですが、一方で治療が済めば患者さま自身は忘れてしまうような"地味"なものもあります。長く診ている患者さまのお口の中をチェックした時、そんな昔の治療物がきちんと残っていて、ちゃんと機能していることがわかると、「しっかり治療してよかった」と、すごく嬉しくなるんですね。だからこそ、手を抜かず、できる限りの良い治療を施したいと改めて思うわけです。そんな気持ちをスタッフとも共有し、彼らが働きやすい職場だと思えるような仕事をしていきたいですね。

経済的な面で見れば、開業後の海外留学なんて最悪なやり方です。でも、結局は「学びたい」という渇望を抑えられませんでした。ただ、最初にスウェーデンに留学した時、私はすでに歯科医師として11年臨床経験を積んでいました。留学中は手術室に勤務していたのですが、縁もゆかりもない東洋人であっても、技術があればすぐに頼ってもらえるんですね。おかげで、経験を積むことができました。そういう意味では、いいタイミングで留学したと思っています。

ええ、でも、最初は骨の移植に絡んだ微生物についての論文を執筆しようと思っていただけなんです。それのために大学の図書館で調べ物をしていたら、偶然、微生物学の教授に会ったんですね。ちょうど良いので論文に関わる質問をしたら内容に興味を持っていただいて、その日のうちに共同研究者まで紹介され、トントン拍子で本格的な研究を始めることになってしまいました。不思議な縁ですよね。でも、勉強を続けていると、そういう縁というのは意外と広がっていくものです。当院で勉強会を開いているのは、スタッフにもそんな「学びの楽しさ」を知ってもらいたいという意味もあります。

子供の頃は絵などうまくもなかったし、自分が描けるなんて思っていませんでした。ただ絵を見ることは好きでしたから、大学に入学して東京に出てきてからは美術館巡りなどもしていたんです。

ところがあるとき、伝説的なバイオリン教師として知られる鈴木慎一さんの「愛に生きる──才能は生まれつきではない」という本を読みました。彼は東京芸術大学で才能あふれる人たちを教育していたのですが、「自分はそんな人たちに対して、本当に教育ができているのだろうか」と思っていたそうです。

そんな彼が戦争直後、物乞いをしていた3歳くらいの子供を引き取って育てます。そして、鈴木氏にバイオリンを教えられたその子は、世界的なバイオリニストに成長したのです。それを読んで「自分も好きな絵を描いてやろう」と俄然やる気が出たんです。理論やテクニックを学んで描いていくうちにどんどん楽しくなって、最終的には美大の予備校にまで通ってデッサンを学んでしまいました。

やはり「才能は生まれつきではない」ということを知って、すごく勇気付けられましたね。例えば、歯科の手技に求められる「器用さ」も一つの才能です。大学の実習などでも最初から器用で飛び抜けて上手な人もいますが、必ずしもその人が大成するとは限りません。その先の訓練次第で誰でも技術は向上するからです。
そして、ただ漠然とトレーニングや勉強を続けるのではなく、効率良く向上させる方法を模索することが、自身をさらに進化させてくれる…私はそれを考えるのが結構好きなんです。