Q. 先生がやりがいを感じる瞬間を教えてください。
生きていくうえで、「口からものを食べる」ということはとっても大切なことです。でも、歯が痛くて噛めないとか、歯がボロボロで噛み合わせが悪くて噛めないとか、食べたくても食べられない状態の人は少なくありません。
とくに、ほとんどの歯が折れたり虫歯になったりして健康な歯がわずかしか残っておらず、上下で噛みあう歯が少ない場合は、その歯にばかり負荷がかかってダメになりやすいんです。そんな状態のかたが、入れ歯やインプラントなどできちんと噛めるようになったり、虫歯治療を経て食べることが楽しめるようになったりすると、やりがいというか、「よかったな」って思いますね。
Q. 印象に残っている患者様とのエピソードを教えて下さい。
当院では、すべての患者様へ丁寧でわかりやすい説明を心がけています。また、痛みのある局部だけでなく、お口の中を総合的に診断して、健康な口内環境を長く維持できるような治療方針を検討します。そのため、はじめて来院されたときは隅々まで口内の検査をさせていただいているのですが、ある患者様が「なんでそんな検査が必要なんだ」と、痛いところだけを治療してほしいとおっしゃったことがありました。
そこで、口内検査の必要性をご説明差し上げたところ、予防の重要性までも理解してくださり、その後は定期的にメンテナンスに通ってくださるまでになりました。歯や歯科医師に対する意識が変わってくださったのはとても嬉しかったです。
Q. 新潟大学歯学部付属病院で勤務していたそうですね。
はい。一般の開業医であれば、利益を上げることを求められてしまう部分もありますが、少なくとも私が勤めていた時代は、大学病院はそこまでシビアではなかったので、利益よりも時間をかけてきちんとした治療をおこなうことを求められておりました。そのため、多少時間がかかったとしても、患者様お一人おひとりにじっくりと向き合って、治療を提供できていたと思います。
また、大学病院なので放射線科へ行ってCTを撮ることもあり、インプラントを植えるためのCTの撮り方や、インプラント自体の方法など、先輩方を見て学んだことも多くあります。
それらの経験が、今に活きているのではないかと思います。
Q. 難しいと感じる症例もあったのでは?
あるはありましたね(笑)。なかでも大変さで印象に残っているのは、下あごの歯茎の骨がほとんどない総入れ歯の患者様です。
入れ歯は歯茎で抑えているのですが、歯茎に骨がないと歯茎自体が薄くなって、入れ歯を抑える場所もなくなってしまいます。
また、骨で支えることができないので、入れ歯が装着できたとしても安定が悪くなったり、入れ歯をつけて噛んだときに歯茎に無理な力がかかったりして、痛みを伴うんです。
どうすれば痛みを感じることなくきちんと使えるようになるのか、入れ歯に裏打ちをして形態を整えるなど試行錯誤しましたが、なかなか上手くいかずに苦労した記憶があります。
Q. さいたま市歯科医師会保健福祉部長に任命されたとお聞きしました。
主に高齢者のかたへ向けて要介護にならないための教室を開いて、お口にまつわる講話をおこなっています。”健康な口”という意味合いの「健口教室」です。
動物というのは、食事をしなければ衰えていってしまいます。人間の場合は鼻や血管から栄養を送り込むこともできますが、基本的には食べなければ生きていけませんよね。食べることでエネルギーが作られるから、動くことができる。動くことで気分が外へ向かい活力が湧く、というサイクルが生まれます。でも、食べられなくなると栄養が足りなくて動けなくなり、引きこもりがちになって人と接する機会も減り、認知症などを引き起こす可能性も生まれてきます。そのような悪循環を招かないためにも、食べることや健康な口内環境を保つことが重要になる、といったお話をさせていただいてます。
Q. ご家庭での予防法や、お子さまのいる親御さまへのアドバイスをお願いいたします。
歯を守るという意味では、歯ブラシやフロス、お年を召した方であれば唾液腺のマッサージや歯間ブラシなど、一般的ではありますが、そういったもので日々メンテナンスをおこなうことが大切かと思います。ただ、歯磨きってほとんどのかたが毎日しているんですよ。それでも虫歯になるのは、上手に磨けていないからなんです。
なので、メンテナンスでできていない部分を補ったり、正しい磨き方を教わってできるようになったり、歯科医師を上手に利用してほしいと思います。そうすることで歯を失うリスクをかなり軽減できるので、重要なことだと感じます。
小さなお子様を虫歯から守るには、おやつの時間や量を決めて与えることです。テレビを観ながらダラダラ食べたり、常に何かが口の中に入っていたりする状況はよくありません。あとはフッ素を塗布することですね。