インプラントは割れないと思われがちですが、実際には人工歯根の本体部分が割れることはほとんどないものの、上部構造は使用中に割れたりずれたりすることがあります。インプラントは高額なため、一度治療を受ければ永久に使えると考えがちですが、医療器具には寿命があることを理解しておくことが重要です。
ここでは、インプラントが破損する原因や再手術が必要となるケースについてご紹介します。
インプラントは割れないと思われがちですが、実際には人工歯根の本体部分が割れることはほとんどないものの、上部構造は使用中に割れたりずれたりすることがあります。インプラントは高額なため、一度治療を受ければ永久に使えると考えがちですが、医療器具には寿命があることを理解しておくことが重要です。
ここでは、インプラントが破損する原因や再手術が必要となるケースについてご紹介します。
まず、インプラントの構造を理解しておきましょう。インプラントは、人工の歯の根として骨に埋め込む「インプラント体」、その上に被せて実際の差し歯のように機能する「上部構造」、そしてインプラント体と上部構造をつなぐ「アバットメント」で構成されています。
インプラント体は歯の根の役割を果たし、顎の骨に埋め込まれます。もしインプラント体が破損すると、インプラント自体が使えなくなり、再手術が必要になります。しかし、上部構造が破損した場合は、その部分を作り直すだけで対処でき、手術は不要です。
上部構造はインプラント体を保護する役割も持っているため、大きな力が加わると上部構造が割れることがあります。これは、インプラント体や顎の骨にかかる衝撃を和らげるために、上部構造が力を吸収して破損するからです。
インプラントの上部構造にはいくつかの素材が使われますが、特にセラミック素材は破損しやすいことを覚えておきましょう。金属はセラミックよりも硬く、割れたり破損したりする心配はほとんどありませんが、見栄えが悪いのが欠点です。
また、セラミックは大きな力が加わったときに衝撃を吸収して割れることができますが、金属の場合はその衝撃がインプラント体や顎の骨に直接伝わる恐れがあります。丈夫さと見栄えの両方を兼ね備えた素材としてジルコニアがありますが、絶対に破損しないわけではないので過信は禁物です。
素材にこだわらず、インプラントが割れる仕組みを理解しておくことで、破損を未然に防ぐ対策を講じることができます。また、実際にインプラントが割れたときの対応方法も知っておく必要があります。次の章では、インプラント破損の原因について見ていきましょう。
かみ合わせが悪いと、インプラントの上部構造に余計な負担がかかります。インプラントは顎の骨に固定されているため動きませんが、天然の歯は数十ミクロン単位で動きます。そのため、力を込めてかんだときにインプラントと天然の歯がしっかりとかみ合うように調整する必要があります。
軽くかんだ状態に合わせて調整すると、強くかんだときにインプラントと正常にかみ合う歯がなくなり、インプラントに過度な負担がかかります。また、虫歯や歯周病はかみ合わせの悪さを引き起こすので注意が必要です。
インプラントの知識が少ない歯医者が虫歯や歯周病の治療を行うと、インプラントと天然の歯のかみ合わせを考慮しない可能性があります。その結果、治療後にインプラントに大きな力がかかる状態になることがあります。
インプラントは手術が完了したら終わりではありません。インプラント手術を受けた後は、定期的な検診とメンテナンスを続けることが重要です。
定期的に検診を受けることで、かみ合わせのずれをすぐに調整できます。かみ合わせの悪さはインプラントの上部構造に大きなダメージを与えるため、歯医者さんでこまめにチェックしてもらいましょう。
自宅でのブラッシングだけでは除去しきれない汚れもあるため、歯医者さんでクリーニングしてもらう必要があります。特に歯周病はインプラント体を支える周囲の骨にダメージを与えるので、しっかりとケアを行いましょう。
九州インプラント研究会の調査によると、治療から10年後にインプラント体が存在している割合、つまり「10年累積生存率」は約93%でした。これは、約7%のインプラントが10年以内に使えなくなることを意味します。
しかし、ブリッジの10年累積生存率が約90%、義歯に至っては約50%という報告と比較すると、インプラントは長持ちしやすい医療器具であると言えるでしょう。一度入れたインプラントを一生使い続けている人も少なくありませんが、全員がそうであるとは限りません。
インプラント治療では、チタンなどの物質が体の組織と調和して結合する性質や、拒否反応を起こしにくい「生体親和性」を利用しています。インプラントは体にとって異物ですが、排除すべき物質ではないと体の組織をだまし続ける必要があります。
しかし、メンテナンスを怠ると炎症や過度な負荷によって、細胞に情報を伝える役割を持つサイトカインが大量に分泌され、インプラント体が異物として認識されやすくなります。その結果、体が異物を排除しようと働き、インプラントが抜け落ちることがあります。
インプラント体も上部構造も良好な状態を維持するためには、歯医者さんでのメンテナンスが必須です。
インプラント治療を受けた歯を再治療する際に無料となる「インプラント保証」があります。保証内容や保証期間は歯医者さんによって異なり、5年や10年の保証期間が設定されている場合もあれば、保証期間が設定されていない場合もあります。
上部構造が割れた場合には、治療を受ける前に具体的な保証内容を確認しておくと良いでしょう。
インプラントには「インプラント体」と「上部構造」があります。保証内容を確認する際には、どちらが対象となっているか注意が必要です。一般的に「インプラント」と言うと「インプラント体」を指すことが多いです。保証内容をチェックする際には、インプラント体と上部構造の両方の内容を確認してください。
インプラント治療を受けた際に保証の話を聞いた記憶がない方もいるかもしれませんが、それでも保証がないとは限りません。実際には利用できる保証がある可能性が高いので、インプラントにトラブルがあった場合は、まず治療を受けた歯医者さんに相談してみましょう。
インプラントの上部構造が割れることは珍しくありません。かみ合わせの悪さによって、知らないうちにインプラントに負荷がかかっている可能性があります。かみ合わせを正常に保つためにも、左右の歯をバランスよく使ってかむように心がけましょう。
素材の性質によって破損のしやすさが異なることも覚えておきましょう。インプラントは一度入れたら何もしなくても永久に使えるわけではありません。破損を防ぎ、寿命を延ばすためには、定期的なメンテナンスを受けることが重要です。
監修医
遠藤 三樹夫先生
遠藤歯科クリニック 院長
経歴
1983年大阪大学歯学部 卒業
1983年大阪大学歯科口腔外科第一講座 入局
1985年大阪逓信病院(現 NTT西日本大阪病院)歯科 勤務
1988年遠藤歯科クリニック 開業
現在に至る