この記事の目次
1.妊婦さんの歯科治療、赤ちゃんへの影響は?
歯科治療による赤ちゃんの影響はありません
妊娠中の歯科治療に不安を覚える妊婦さんは多いようですが、一般的な歯科治療による胎児への影響はほとんどありません。むしろ、妊娠中に歯科治療を受けなかったことにより、母体や赤ちゃんの健康が損なわれることもあるのです。
母親が妊娠中に歯周病にかかると、早産や低体重児出産のリスクが7.5倍にも高まるというデータもあります。これは、歯周病菌が産出する内毒素が、子宮を収縮させるホルモンに似た働きをするためといわれます。
また、古くは「子を産めば歯を失う」といわれた通り、妊娠中はつわりなどの体調不良による口腔ケア不足や、唾液分泌の減少により、普段より虫歯になりやすい状態です。妊娠中も必要な歯科治療は受けた方がよいでしょう。
配慮を怠らなければ、ほとんどの治療は可能
一部の抗生物質の服用が必要になる治療以外は、基本的には妊娠中でもほとんどの歯科治療は可能です。妊娠初期のレントゲン撮影や、お腹の大きくなった妊娠後期の治療などでは注意を要することもありますが、敏感になりすぎる必要はありません。身体への配慮を怠らなければ、妊婦さんも積極的に歯科治療を受けて、「子を産めば歯を失う」の言い伝えを覆すことも十分可能なのです。
妊娠週数と状態、希望をちゃんと伝えること
母体の歯科治療による胎児への影響は少ないものの、妊娠中の歯科治療には、さまざまな配慮が求められます。そのため、妊婦さんが受診する際には、妊娠している旨をちゃんと歯医者さんに伝え、診療への希望を率直に伝えることが大切です。妊娠週数や胎児と母体の状態はもちろん、無理のない体位やトイレの頻度など、受診の際にはっきりと伝えておきましょう。
妊娠中の治療が赤ちゃんの虫歯予防にも
妊娠中にお母さんが虫歯を治療することは、生まれてくる赤ちゃんの虫歯予防にもつながります。生まれたての赤ちゃんのお口には、虫歯菌は存在していません。つまり、赤ちゃんを取り巻く環境から、虫歯菌の存在をなくすことが、赤ちゃんの虫歯予防への最短距離となるのです。そのためには、赤ちゃんが生まれる前から、家族が虫歯治療に取り組むことが大切です。特に、赤ちゃんに最も身近に接するお母さんの治療は欠かせないといえます。
妊娠前、妊娠中、産後に定期健診を
妊娠すると、お母さんの気持ちはお腹の赤ちゃんを中心に向かいがちです。また、出産後も手のかかる赤ちゃんの育児に追われ、自分のことは数年間にも渡って後回しになりやすいです。もしも、妊娠前や妊娠中、産後のお母さんの歯が虫歯になってしまっていたら、数年間も放っておいたのではひどく悪化させてしまいます。産婦人科や小児歯科などの受診とあわせて、お母さんの歯科受診も忘れないようにしてください。妊娠前、妊娠中、産後と定期的に歯の健康診断を受けるスケジュールを、事前に立てておきましょう。
2.妊婦さんでも受けられる歯医者さんの治療って?
歯を削って詰めものを入れる虫歯治療
妊婦さんでも、通常の虫歯治療であれば問題なく受けられます。一般的な、虫歯の患部を削り、詰め物をする治療などが該当します。
最悪のパターンは出産中に症状が出てくることです。当然ですが出産の方が優先されるので、歯の痛みは我慢しなくてはいけません。そんなリスクを回避するために、症状はなくても妊娠中に一度は歯医者さんを受診しておくのがおすすめです。
歯周病の治療
妊娠中にはつわりなどにより、口腔ケアを怠りがちです。歯茎から血が出ることも多くなり、歯垢(プラーク)と出血により、歯周病がどんどん進行してしまいます。定期的に歯石を取り除く、歯間汚れを除去する、服薬により歯周病菌を除菌するなど、歯周病の治療も妊娠中に積極的に受けておきたい治療です。
神経を抜く治療
虫歯などで歯に強い痛みを感じるときには、妊婦さんでも歯の神経を抜く治療を受けることができます。痛みが強く、食事や睡眠にも支障が出るのでは、胎児への影響も懸念されます。そこまでひどい状態になる前に対処するのが理想ですが、必要な際には妊娠中の神経治療も検討しましょう。
歯を抜く治療
妊娠中の抜歯には否定的な意見もあるようですが、通常の抜歯であれば、妊婦さんも治療を受けることが可能です。ただし、抜歯後の痛みや腫れが長引きそうなケースでは、鎮痛剤や抗生物質を長く飲み続けなければならないこともあり、出産後まで抜歯を遅らせるように、歯医者さんからすすめられることもあるようです。
歯科予防治療
虫歯や歯周病をひどい状態にしてしまわないように、妊婦さんは予防治療を積極的に受けておきたいところです。歯医者さんに相談のうえで、クリーニングやフッ素塗布など、虫歯を予防する処置を受けておきましょう。
矯正治療
矯正治療についても、妊娠中に受けることが可能です。矯正治療では適切な時期に適切な処置を行うことがとても重要です。妊娠したからと治療を受けないでいると、それまでの治療の働きが無駄になってしまうこともあります。妊娠週数や体調など考慮しながら、歯医者さんにも相談して予定を組んで、妊娠中も矯正治療を継続できるようにしておきましょう。
3.妊婦さんが避けるべき歯医者さんの治療とは?
インプラントなどの外科的治療
インプラントや歯周外科手術など、緊急でない外科的治療は、妊婦さんは避けた方がよいでしょう。こうした治療では、人によっては腫れや痛みが長引き、長期に渡って抗生物質を服用する必要性が出てくる場合もあります。赤ちゃんへの影響を考えると、妊娠・出産・授乳の一連の流れが終わってから治療を受けることをおすすめします。
親知らずの抜歯
親知らずの抜歯は、他の抜歯に比べても腫れや痛みが強くなる傾向があり、長期にわたって抗生物質を服用するケースも多くなります。そのため、妊娠中の親知らずの抜歯は避けた方が無難です。妊娠は予測できるものではないので、できれば親知らずは妊娠前に抜いておいた方がよいかもしれません。気になるようなら、前もって歯医者さんで相談ししかるべき処置をしておきましょう。
4.妊婦さんが歯医者さんの受診で気をつけるべきこと
なるべく妊娠中期での受診を
つわりでお口の中に触れられるのがつらい妊娠初期や、お腹が大きくなってしまって診療台に乗るのもひと苦労な妊娠後期では、妊婦さんの負担は増大してしまいます。できれば胎児の状態と妊娠が安定した、妊娠中期での診療がおすすめです。
治療時の体位に気をつける
普段はなんでもない動作でも、妊娠中には大きな負担となります。歯科診療時の体位も、気をつけたいことのひとつです。仰向けになることが難しい妊婦さんは、診療台を倒しすぎないよう依頼したり、別の姿勢での受診ができないか相談しておきましょう。
定められた投薬量を守って服薬する
基本的に妊娠中の患者さんに薬を処方することはまれですが、痛みが強い治療の場合などは薬の処方を受けることもあります。妊娠中の服薬は、赤ちゃんへの影響を考えると避けた方が無難です。
ただし、妊娠していることを伝えて処方されたものなら、そこまで気を使う必要はありません。しかし、服薬量や服薬間隔などは、必ず歯医者さんの指示を守り、自分勝手に飲むことのないように気をつけましょう。
現実的な治療計画を立てる
継続的な治療が必要となる場合、妊娠・出産・育児を経てもきちんと続けることができる治療計画を立てることは、妊婦さんの歯科受診にとって大切なことです。産前産後も歯医者さんに通えるのかどうかなど、歯医者さんと相談しながら現実的な計画を立てるようにしましょう。
5.妊婦の歯医者受診で気になるポイント
レントゲンが赤ちゃんに影響しない?
レントゲン撮影は赤ちゃんに影響する可能性があるため、妊娠中は避けるべきだといわれています。
ですが、歯医者さんで使われているレントゲンは歯科用の部分的なものです。そのため、赤ちゃんへの影響はあまり気にする必要はありません。さらに、レントゲン撮影時には鉛のエプロンでお腹を保護するので、影響はほとんどゼロになるといってよいでしょう。
麻酔を使っても赤ちゃんに影響はない?
痛みの出る治療を行う際には、歯医者さんでも麻酔を使用します。「麻酔は赤ちゃんへの影響が気になるから、痛みはがまんする」という妊婦さんもいるようですが、歯医者さんで使用している麻酔は歯茎への局所麻酔で、無痛分娩に使用されているのと同じ麻酔です。歯科治療程度の麻酔なら、気にせず使用してもらってかまいません。
赤ちゃんのために鎮痛剤はがまんする?
妊娠中の服薬は、原則として避けるのが無難です。とはいえ、あまりにも痛みが強い場合などには、痛みに耐えること自体が胎児に悪影響を及ぼしかねません。そんな場合は薬を処方されることもあります。妊娠中であることをきちんと伝えたうえで処方された薬であれば、服用しても問題はありません。その際、用法・用量は必ず守るようにしましょう。
6.まとめ
歯医者さんを受診することで、赤ちゃんに影響はないかと慎重になる妊婦さんも多いようですが、ちゃんと配慮すれば問題なく診療は可能です。むしろ、妊婦が歯科治療を受けるリスクより、妊娠したからといって歯科受診を怠り、状態を悪化させてしまうことのリスクの方が高いのです。
できれば妊娠中期の体調の安定している日を選んで、しっかりと歯医者さんと相談しながら、必要な歯科治療を進めるようにしましょう。