この記事の目次
1.知っておこう、顎裂ってどんな病気?
顎裂とは、口唇口蓋裂の一つです
顎裂(がくれつ)とは、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)という病気の中の一つの症状です。口唇口蓋裂は、先天性の疾患で、赤ちゃんがお腹の中で成長していくときに、本来は繋がるはずの唇や歯茎、口蓋が裂けたまま生まれてしまう疾患をいいます。
そのなかでも、裂け目が発生している部位によって呼び名が異なります。さらに、顎裂は、歯茎部分が裂けてしまっているため、歯槽骨(しそうこつ)と呼ばれる歯の土台となる部分がありません。
このため、治療には骨を再建させるための手術が必要です。また、口唇口蓋裂を発症している場合、患者のほとんどが顎裂も併発しています。
顎裂はどんな症状が出るの?
顎裂は、機能性と審美性(見ため)に影響します。まず機能性では、哺乳がスムーズにできない、うまく発声できないといった問題が起こります。また、口蓋と鼻腔が繋がってしまっているために滲出性中耳炎を引き起こすこともあります。
審美性で気になるのは、外見と歯並びです。歯茎がきれいに繋がっていない、歯の欠損やまっすぐに生えてこないといった症状が挙げられるでしょう。
どうして顎裂になってしまうの?
顎裂の発症原因としては、妊娠2〜3カ月の初期に胎児に異常な力が加わってしまったこと、風疹などの病気にかかってしてしまったことなど、考えられる要因はさまざまです。遺伝や高齢出産も原因のひとつではないかと言われていますが、現在でもはっきりとした原因はわかっていません。
また、日本人に多い先天異常として知られています。これらの異常の発生する頻度は、日本人では約500人の出産に1人の割合で、日本人に多い先天異常といわれています。
2.顎裂の診断を受けたらどうすればいいの?
出生前の胎児エコーで診断が可能
口唇口蓋裂は、妊婦健診の腹部エコー検査の際に発見されることがほとんどです。医療技術の発達により3D、4Dエコー検査ができる歯医者さんが増え、高確率で発見できるようになりました。
胎児の唇、口蓋は妊娠初期に形成されますが、口唇口蓋裂と診断されるのは顔の細胞のほとんどができ上がっている妊娠中期のころです。この時期に胎児の唇に割れ目が見られると口唇口蓋裂が強く疑われます。
ただし、症状には個人差があり、30週目を過ぎた妊娠後期で発覚することもあります。
赤ちゃんの授乳が心配、どうすればいいの?
赤ちゃんは授乳の際、舌と上あごで乳首をくわえ、吸引してミルクを飲んでいます。しかし、口唇口蓋裂の子どもは授乳の際に使う上あごが繋がっておらず、うまく吸うことができません。
このため、十分に哺乳することができずに体重増加不良や、裂け目の部分からミルクが入り込むことで、滲出性中耳炎を引き起こす原因にもなってしまいます。このような哺乳障害の改善を図るために、出生後間もなく、上あごにはめるプレート(ホッツ床)をつくります。
ホッツ床は哺乳サポートのほか、上あごをきれいに整える役割も果たします。ホッツ床は、子ども成長や口唇裂の手術のタイミングで調整するために、再度つくりかえる必要があり、歯医者さんで定期的なメンテナンスを行うことが大切です。
顎裂に必要な治療は?
顎裂と唇裂を併発している場合、手術によって唇をきれいにつなぎ合わすことができたとしても、歯茎部分が裂けているため口腔と鼻腔が繋がったままの状態です。見た目にも問題が残るため、一般的には唇の手術をしたのちに、顎裂部分を繋げる手術を行います。
また、歯が生える土台が欠損していることで歯並びも悪くなるため、歯が生えてくるタイミングで歯医者さんで矯正を行います。裂け目の幅が狭い場合は、歯科矯正のみで改善できる場合もありますが、裂け目の幅が広い場合には手術が必要です。
顎裂の手術方法と望ましい時期
唇裂や口蓋裂とは異なり、顎裂の場合は骨を移植する再建手術を行う必要があります。歯茎の骨の一部が欠損しているため、再建手術を行わないと、歯が生えてこないといった問題も起こり得るからです。移植には「腸骨」と呼ばれる腰の骨を利用します。
腸骨から骨髄と組織を採取し裂部に埋め込み、その骨を裂部の粘膜で覆います。手術を受ける時期は矯正の進み具合によっても変わりますが、乳歯と永久歯が混在している5〜10歳くらいの時期が望ましいとされています。
言葉の訓練も必要です
顎裂と口蓋裂を併発しているお子さんが声を出すとき、フガフガと鼻にかかったような声になってしまうのは、口内と鼻腔が繋がっている状態だからです。また、このせいで日本語にない発音が出てきてしまうこともあります。
そういった癖が残らないよう、手術後は言葉の訓練を始めていきましょう。訓練を行うことで正しい発声、発音の仕方を身につけていけば、たくさんの人との会話を楽しむことができるようにもなるでしょう。
3.顎裂の治療費を補助してくれる助成制度
代表的なのは「乳幼児医療助成制度」
乳幼児医療助成制度とは、乳幼児が医療機関にかかった場合、その診療費の全額または一部を自治体が助成してくれる制度です。口唇口蓋裂はこの制度が適用されるため、各自治体で定める上限金額を超える医療費を支払う必要がありません。自治体により助成の範囲が違うため事前に確認しておくといいでしょう。
また、この制度を利用するためには、乳幼児も健康保険に加入しなくてはなりません。受給者証の申請、発行は各自治体で受け付けているので、まずは担当課の窓口へ相談してみましょう。
18歳以上か否かで基準が変わる「自立支援医療制度」
自立支援医療制度とは、以下の条件で適用される、治療費の一部を公費で負担する医療費助成制度です。
1)18歳未満(育成医療)
・身体に障がいのある場合、指定された医療機関で、入院、手術、通院により、確実に効果が見込める方
・原則として手術を行う治療
口唇口蓋裂の場合、指定されている障がいの中でも「音声、言語、咀嚼機能障がいによる障がい」に含まれます。
また、補装具(治療用装具)の着装の承認を受けている児童(18歳未満)の場合、指定育成医療機関での装具の着装を行なった場合、所定の手続きによりその費用を請求することも可能です。歯医者さんや自治体に確認しておくといいでしょう。
2)18歳以上(更生医療)
・障害者手帳の交付を受けている
・障がいの悪化を防ぐ、あるいは症状の緩和を目的とした治療
自己負担金額は前年度の課税額から計算します。また、入院時の食事は自己負担です。
口唇口蓋裂の患者さんの場合、矯正治療をしても咀嚼機能に障がいを残す場合、身体障害者手帳が発行されます。育成医療と同様に、こちらも指定医療機関での治療に適用される制度のため注意が必要です。
4.まとめ
口唇口蓋裂および顎裂は、適切な時期に適切な治療を受けていけば、食事や会話もスムーズに行うことができるようになります。
また、見た目にも周囲の視線が気にならないまでに回復させることができるでしょう。お子さんのサポートをしっかりと行なっていくためにも、定期的な検診を受け、歯医者さんと相談しながら治療を進めていきましょう。