唇の腫れを治したい~粘液嚢胞、ヘルペスからクインケ浮腫まで解説!

突然、唇が腫れたら…、なんだか心配になってしまいませんか? 唇の腫れは、前触れらしい前触れもなく、いきなり大きく腫れることがあります。朝起きたら、唇がパンパンに腫れていた…という症例も珍しくありません。
こちらの記事では、主な症状として「唇の腫れ」をきたす病気を紹介することにしました。「原因・一般的治療法」にも言及しているので、ぜひ、参考にしてください。

1.粘液貯留嚢胞による唇の腫れ…!

唇のすぐ裏側に「大きな水ぶくれ」ができているなら、「粘液貯留嚢胞」を疑ってください。痛みがなく、だんだん大きくなっているようなら、粘液貯留嚢胞である確率はさらに高くなります。
嚢胞の内容物は、行き場をなくした唾液です。大きな水ぶくれなので、正面から見ても「唇の腫れが出ている」と感じられます。
唾液を分泌する「小唾液腺」が傷つき、導管が閉塞したことが原因です。要するに、唾液の出口がつぶれてしまい、分泌された唾液の行き場がなくなった状態…ということになります。
結果、口腔粘膜の内部に唾液が溜まり、水ぶくれを形成したわけです。
小唾液腺が塞がる原因の多くは、物理的要因です。実際、「魚の骨」など食品の一部が刺さった場合、口腔粘膜を強く噛んでしまった場合…などに、小唾液腺の出口が刺しつぶされることがあります。
同じ場所を何回も傷つけると、その部位に粘液貯留嚢胞が生じる確率は上がります。

さて、小唾液腺がつぶれても、唾液の分泌は止まりません。
そのため、粘液貯留嚢胞はどんどん巨大化します。大きくなると1.5cm~2cmほどに達することもあります。そして、だいたい2cm前後になると、嚢胞は破裂します。
また、自然に破裂しなくても、物理的圧力を与えれば、簡単に破裂して、中身が出てきます。
しかしながら、多くの場合、破裂させても問題は解決しません。小唾液腺の出口が塞がっていることに変わりはないので、再び嚢胞ができて巨大化していきます。
たいてい、「嚢胞発生→巨大化→破裂→再発」というサイクルを延々と繰り返すことになります。

粘液貯留嚢胞の治療

粘液貯留嚢胞それ自体が、健康に悪影響を与えることはありません。しかし、たびたび大きな水ぶくれが発生しては邪魔に感じますから、基本的には治療を受けたほうが賢明でしょう。
原則、粘液貯留嚢胞に対しては外科手術による摘出が選択されます。ただし、嚢胞だけでなく、原因となっている小唾液腺ごと摘出しなければなりません。
嚢胞が破裂したばかりだと、周囲との境界線が曖昧で「どこまでが嚢胞なのか」を判断できません。そのため、外科手術の実施は「嚢胞が膨張しているタイミング」が望ましいです。患部を切開し、嚢胞・小唾液腺を周囲組織から剥離・摘出します。
当然、患部に物理刺激を与えていた要因がはっきりしているなら、原因も取り除きます。「歯の尖った部分を丸くする」「鋭利な詰め物・かぶせ物を調整する」などの処置をおこない、口腔粘膜の小唾液腺が再び刺激されるのを防ぐわけです。
手技に要する時間は15分程度で、術後の痛みはほとんどありません。

また、最近では嚢胞・小唾液腺を摘出する際、レーザー機器を用いる事例も増えています。「CO2レーザー」「エルビウムヤグレーザー」などを用いて切除すると、メスで切開するより出血量が少なく済みます。
傷口の大きさによっては縫合する必要もなく、患者さんの負担が小さくなります。

2.口唇ヘルペス(単純疱疹)による唇の腫れ…!

唇が赤く腫れ、複数の小さな水ぶくれができる場合、「口唇ヘルペス」が疑われます。「水ぶくれが大量にできる」というイメージが先行していますが、「唇の糜爛(びらん:潰瘍のような荒れ)」「唇の腫れ」といった症状が目立つこともあります。
口唇ヘルペスはウイルス感染症であり、「単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)」と呼ばれるウイルスが原因です。
ヘルペスウイルスは、「ウイルスが体内に入る=発症」という帰結にはなりません。そもそも、日本人の7~8割は体内に単純ヘルペスウイルス1型を保有しています。
ヘルペスウイルスは、一度でも体内に入ると根絶することができないのです。単純ヘルペスウイルス1型の場合、ふだんは「三叉神経節」と呼ばれる顔の神経に潜んでいます。根絶方法がない以上、ずっと共存を強いられることになります。
多くの人の体内に、すでにウイルスが存在しているわけですが、どんなときに口唇ヘルペスを発症するのでしょうか? 答は「体力が低下したり、免疫力が落ちたりしたとき」です。実際、風邪をひいたときに口唇ヘルペスを併発する例は多く、昔は「風邪の華」と呼ばれることもありました。
以上から、単純ヘルペスウイルス1型は「弱ったときに暴れ出して、口唇ヘルペスの症状をもたらす病原体」ということになります。

もちろん、単純ヘルペスウイルス1型に感染したことがない人は、「初感染→発症」となることもあり得ます。その場合、発熱・全身倦怠感などの症状を伴い、身体の広い範囲に水ぶくれが出る傾向です。
「初感染」と「すでに感染している人の再発」では症状が異なる…という部分も、知っておきましょう。

口唇ヘルペスの治療

ウイルス感染症なので、治療には抗ウイルス薬を用います。ただし、現状、ヘルペスウイルスを体内から根絶する薬は存在しません。ヘルペスウイルスに用いる抗ウイルス薬は、あくまでも「ウイルスの増殖を抑制する薬」です。
単純ヘルペスウイルスに使われる薬は、「DNAポリメラーゼ阻害薬」と呼ばれる系統になります。
ヘルペスウイルスが増殖するときには、まず、体内の細胞に感染して、細胞を「ウイルス感染細胞」に変えます。そして、ウイルス感染細胞の複製能力を利用して、ウイルスを複製させるのです。
このとき、ヘルペスウイルスのDNAをコピーする必要があり、DNAのコピーには「DNAポリメラーゼ」という酵素の働きが不可欠です。そこで、ウイルス複製に必要なDNAポリメラーゼの働きを阻害する薬が役に立つのです。

口唇ヘルペスの治療に用いられる「DNAポリメラーゼ阻害薬」には、以下のような種類が存在します。

口唇ヘルペスに用いられる主な薬剤

商品名

一般名(有効成分)

備考

ゾビラックス

アシクロビル

内服 / 処方薬

ファルラックス

アシクロビル

内服 / 処方薬

サワイ

バラシクロビル塩酸塩

点滴 / 医療用

アクチビア

アシクロビル

外用 / 市販薬(第1類)

ヘルペエース

アシクロビル

外用 / 市販薬(第1類)

ヘルペシア

アシクロビル

外用 / 市販薬(第1類)

ファムビル

ファムシクロビル

内服 / 処方薬

バルトレックス

バラシクロビル塩酸塩

内服 / 処方薬

ビダラビン点滴静注用300㎎「F」

ビダラビン

点滴 / 医療用

アラセナ

ビダラビン

外用 / 市販薬(第1類)

外用の市販薬は、すべて「口唇ヘルペスの再発例」を適応症としています。患者さん自身が「自分は口唇ヘルペスを繰り返している」と認識しており、間違いなく口唇ヘルペスの再発例である…と認識できている場合だけ、使用してください。
確証が持てないなら、きちんと医療機関を受診したほうが賢明です。

3.帯状疱疹による唇の腫れ…!

一般的には、「身体に帯状の発疹・水ぶくれが現れる病気」と認識されています。もちろん、その認識はほぼ正しいのですが、必ずしも胴体に発症するとは限りません。顔面・口腔内などに発症することもあります。もちろん、唇周辺に発症すれば、自覚症状は「唇の腫れ・痛み」になるでしょう。
そもそも、帯状疱疹というのは、厳密には皮膚病ではありません。神経がウイルスに侵される「神経の病気」です。「神経が炎症を起こし、それに付随して皮膚症状が出る」という順序になります。実際、皮膚症状は神経の走行経路に沿って発現します。
さて、主な自覚症状が「唇の腫れ・水ぶくれ・痛み」になるのは、帯状疱疹の原因ウイルス―「水痘・帯状疱疹ウイルス」が三叉神経に感染した場合です。唇は三叉神経の分岐先である「上顎神経」「下顎神経」の支配領域(上唇が上顎神経、下唇が下顎神経)なので、三叉神経が感染すれば、唇に症状が出ます。
帯状疱疹は長引く傾向にあり、腫れ・水ぶくれがなくなってからも、痛みが続きます。痛みが治まるまでには、症状が出てから最大1か月ほどかかる場合もあるでしょう。

帯状疱疹の治療

水痘・帯状疱疹ウイルスは、ヘルペスウイルスの仲間です。そこで、口唇ヘルペスと同様、「抗ウイルス薬」による治療をおこないます。基本的には、口唇ヘルペスと同じ薬剤が用いられますが、市販外用薬の適応症は単純疱疹(口唇ヘルペスなど)だけです。
帯状疱疹の場合、内服薬(重症例は入院下で点滴静注)による治療が必要になります。

口唇ヘルペスに用いられる主な薬剤

商品名

一般名(有効成分)

備考

ゾビラックス

アシクロビル

内服 / 処方薬

ファルラックス

アシクロビル

内服 / 処方薬

サワイ

バラシクロビル塩酸塩

点滴 / 医療用

ファムビル

ファムシクロビル

内服 / 処方薬

バルトレックス

バラシクロビル塩酸塩

内服 / 処方薬

ビダラビン点滴静注用300㎎「F」

ビダラビン

点滴 / 医療用

アメナリーフ

アメナメビル

内服 / 処方薬

口唇ヘルペスの項目に書かれていなかった薬剤としては、アメナメビル(商品名:アメリナーフ)があります。これは「DNAポリメラーゼ阻害薬」とは異なる作用機序で働く薬剤で、「ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬」に分類されます。現状、アメナメビルの適応症は帯状疱疹だけになっています。
ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬は、DNAが複製されるときの分岐点「ヘリカーゼ・プライマーゼ複合体」の働きを阻むことでウイルス増殖を抑える薬です。2017年7月に厚労省の認可を受け、2017年9月7日に処方薬として発売されたばかりの新薬です。

4.肉芽腫性口唇炎による唇の腫れ…!

突然、唇に「蜂に刺されたのではないか」と勘違いされるほどの腫れが生じます。唇の腫れに加えて、表面の皮がポロポロ落ちるほどに荒れることもあります。ただし、痛みはなく、腫れは数時間~数日で収まるのが普通です。
しかし、いったんは収まっても、同じような症状を何度も繰り返すことになります。炎症を繰り返すうちに唇の一部が硬くなり、ゴムのような質感に変わってしまう例もあります。
非感染性の炎症であり、原因がはっきり特定されているわけではありません。「多数の要因が複合的に絡み合って生じるのではないか」と考えられています。一応、関連が疑われている要因はいくつか存在しているので、以下に図で示したいと思います。

肉芽腫性口唇炎との関連が疑われる疾患

病名

備考

根尖病変(根尖性歯周炎)

口腔内感染

虫歯

口腔内感染

扁桃炎

咽頭感染

金属アレルギー

アレルギー疾患

食物アレルギー

アレルギー疾患

クローン病

原因不明の炎症性疾患

メルカーソン・ローゼンタール症候群

遺伝的素因その他による疾患

特に強い関連が疑われているのは、図の最下部に記載した「メルカーソン・ローゼンタール症候群(MRS)」です。MRSは「顔面・唇の腫れ」「皺襞舌(しゅうへきぜつ:大量のシワが刻まれた舌)」「顔面麻痺」を特徴とする疾患です。
3つの症状すべてが出るとは限らず、2つ以上の症状が見られればMRSと診断されることがあります。

肉芽腫性口唇炎が拡大し、さらに「皺襞舌」「顔面麻痺」が加わると、そのままMRSの症状に合致する…という点に着目してください。この事実から、「肉芽腫性口唇炎はMRSの一部症状が発現したものではないか」と考える医療関係者もいます。
実際、MRSは遺伝的素因のほか、口腔内感染・咽頭感染などが助長要因になると考えられており、「関連が疑われる疾患」も重複しています。
以上から、肉芽腫性口唇炎は複合的要因によって発生する口唇炎であり、MRSとの関連が特に疑われる…と結論づけることが可能です。

肉芽腫性口唇炎の治療

虫歯・根尖病変などの口腔疾患があれば、それを治療します。実際、口腔内感染による疾患を治療することで、肉芽腫性口唇炎が快方に向かった例が報告されています。また、歯科用金属アレルギーが疑われる場合、原因物質の除去により改善することがあるようです。
原因不明の場合は、ステロイド剤で消炎を図る対症療法をおこないます。「プレドニゾロン(商品名:プレドニン)」の内服・局所注射、「トリアムシノロン(商品名:ケナコルト)」の局所注射、「トラニラスト(商品名:リザベン)」の内服などが一般的な治療方針になります。

5.クインケ浮腫による唇の腫れ…!

クインケ浮腫の主な症状は「唇の腫れ」です。唇全体が赤く、大きく腫れあがるのが典型的症状といえます。唇だけでなく、頬(ほほ)・まぶたなど、ほかの部位が腫れることもあります。
数時間で急速に腫れたあと、短時間で腫れが引きはじめ、3~4日以内には消失するのが普通です。腫れているときに、痛み・かゆみなどはありません。腫れたところを指圧しても痕は残らず、弾力は保たれています。
クインケ浮腫には、遺伝性と後天性の2種類が存在します。遺伝性のクインケ浮腫は「C1-INH(C1エステラーゼインヒビター)」という酵素の欠落・機能異常が原因です。遺伝性の場合、正式には「遺伝性血管神経性浮腫(HAE)」と呼ばれます。
遺伝性は重症化しやすく、喉・気管支が腫れて気道閉塞による窒息を起こすリスクがありますので、症状が発現したら、すぐに医療機関を受診しなければなりません。ただ、遺伝性のHAEを有している家系は国内に10家系程度なので、非常に稀(まれ)な疾患といえます。
後天性のクインケ浮腫は、薬剤へのアレルギー反応として発現することが多いです。ペニシリン・アスピリンなどの薬剤アレルギーで「ヒスタミン(アレルギー物質)」の分泌が増加すると、血管から水分が浸出するようになります。
これを「血管透過性が上がる」と表現します。血管から漏れた水分により、むくみが生じて、クインケ浮腫になるわけです。

そのほか、「物理刺激で誘発される血管性浮腫」「アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬―循環器疾患の薬)の副作用として現れる血管性浮腫」など、後天性のクインケ浮腫にはいくつかの種類があります。
ただ、「突発性血管性浮腫」といって原因不明のクインケ浮腫も多く、まだまだわからない部分も多い病気です。

クインケ浮腫の治療

遺伝性の場合、欠損している酵素―「C1-INH」を補充する必要があります。気道閉塞の危険がある場合などは、同時に「ステロイド剤の静脈注射」で早期消炎を図ります。気道確保のために気管挿管・気管切開をすることもあります。
後天性のクインケ浮腫に対しては、対症療法が基本です。抗ヒスタミン薬を内服してアレルギーを抑えるなど、「今出ている症状を抑える治療」をしながら、治癒を待ちます。
蕁麻疹を伴うことも多く、「蕁麻疹と同様のアレルギー疾患」と理解するのがわかりやすいかもしれません。

6.まとめ

「唇が荒れる・かゆくなる」という場合、多くは口唇炎でしょう。しかし、唇の腫れは「ウイルス感染症」「原因のはっきりしない疾患」といった恐れもあるので、慎重な対応が必要になってきます。
重篤な症状がなければ自宅で経過観察をしても構いませんが、その場合は最大2週間を目安としてください。「2週間で腫れがひかない場合」「何度も腫れを繰り返す場合」は、迷わず皮膚科・歯科口腔外科などを受診してください。

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