空隙歯列(くうげきしれつ)とは、歯と歯の間に隙間があくことをいいます。いわゆる「すきっ歯」のことです。しかし、すきっ歯の原因には「正中離開(せいちゅうりかい)」という状態もあり、空隙歯列と正中離開とは少し仕組みが違います。ここでは、空隙歯列の特徴と原因、治療法に触れていきます。前歯のすきっ歯が目立つとお悩みの方は、まず自分のすきっ歯の原因を知り、対処法を知るきっかけにしてください。
この記事の目次
1.空隙歯列とは
1-1 歯と歯の間にできる隙間
空隙歯列(くうげきしれつ)とは、歯と歯の間にできる隙間のことです。
しかし、歯と歯の間にすき間があることを、すべて空隙歯列と呼ぶわけではありません。
より正確に説明すると、空隙歯列とは、顎が大きい、または歯が小さいことが原因で、歯がまばらに生えるような状態になっていることを指して言います。
ただ歯並びが悪いだけでなく、スペースが広いために、歯が歯茎を持て余してしまう状態です。
空隙歯列は歯並びが悪いことには変わりないので、不正咬合(ふせいこうごう/噛み合わせが悪い状態)の中の一つとして分類されています。
1-2 空隙歯列と正中離開との違い
正中離開は、前歯の2つの間に隙間ができる状態をいいます。
前歯の2本の歯の隙間のみが正中離開に該当するので、それ以外の歯の隙間が開いていても、正中離開とは呼びません。
空隙歯列は顎全体の大きさや、歯の大きさ、歯の数が影響して起こり、歯列全体に影響が及んでいる状態を指します。
対して、正中離開は、前歯2本の間にだけ隙間があることを指します。
2.空隙歯列が起きるケース
2-1 顎が大きい
顎が大きいと、歯の大きさや数は正常でも、歯の生えるスペースを持て余すような状態になります。
つまり、生えてくる歯に対して、スペースが広すぎる状態です。
歯が生える土台が広いので、通常の歯の大きさや数では、隙間を埋め尽くすことができません。
歯は、与えられたスペースにまんべんなく分布するように生えてきます。
余分なスペースがある状態では、詰まった状態で生えてきてはくれず、隙間が空いてしまいます。
顎が大きすぎると、正常な歯の本数や大きさだったとしても、隙間が発生してしまうのはこのためです。
逆に、生えてくる顎のスペースが狭すぎると、歯が重なって生えてくることがあります。
2-2 歯が小さい
顎の大きさが正常でも、歯1本1本の大きさが小さいとスペースが余ってしまいます。
全体の本数が正常でも、顎の大きさと歯の大きさがマッチしなければ、空隙歯列になってしまいます。
2-3 指しゃぶり、舌などの悪癖
「小さい頃によく指しゃぶりをしていた」「昔から舌で前歯を押してしまうくせがある」
こういった癖がある(あった)人は、空隙歯列になりやすくなります。
指や舌のそれぞれの力は些細なものですが、長年続けると歯を動かすほどの力になります。
上述の癖が顎の骨を押し広げてしまい、歯に隙間を作っている可能性はゼロではありません。
「頬杖をつく」「うつぶせで寝る」といった癖も歯並びに影響を及ぼし、空隙歯列になる場合がある、とする医師もいます。
2-4 舌が大きい
舌が大きいと歯の内側に収まらず、大きすぎる舌が歯や顎の骨を押し広げます。
例え舌に強い力を入れていなくても、軽くあたっているだけでそれが歯を動かすことにつながります。
もし人と比べて舌が長い、大きいなどの特徴があれば、その舌の大きさが空隙歯列の原因である恐れも考えられます。
2-5 歯の本数に異常がある
生えている歯の本数が少なければ、顎や歯の大きさが正常でも隙間ができやすくなってしまいます。
通常、永久歯の数は上下合わせて28本です。
しかし、先天的に歯の本数が少ない状態の人がいます。
歯があっても生えてこない(埋まったままになっている)ケースも考えられます。
歯の本数の少なさが、空隙歯列の要因となっている場合があります。
2-6 顎の成長に異常がある
成長過程で顎が異常に発達すると、それが原因で歯と歯の隙間に異常を生じることがあります。
人間の顎は身体の成長とともに大きくなります。
顎の成長が過剰だと、顎の大きさや形が影響し、歯列にも悪影響を与えるようになります。
3.空隙歯列のリスク
3-1 咀嚼に問題が発生する
すきっ歯は、見た目だけの問題ではありません。
空隙歯列になると、ものが噛み切れない、噛んでもしっかりとすりつぶすことができずに飲み込めない、といった咀嚼障害が発生します。
しっかりと咀嚼して噛み砕くことができれば、消化を担当する胃腸の負担が減ります。
空隙歯列で咀嚼障害のある人は消化不良を引き起こし、栄養面の問題に悩まされる恐れがあります。
3-2 発音に支障が出る
すきっ歯になると、歯と歯の隙間から空気が抜けてしまうため、発音がしにくくなる恐れがあります。
少し話しにくくなったり、発音がきれいにできない程度で済む人がいる一方、職業上、人前で話すことが多い人は、支障を感じることもあるかもしれません。
3-3 顎の関節などに負担がかかる
空隙歯列は、ただの歯と歯の間にすき間があるだけ、と考えてしまいがちです。
しかし、噛み合わせがズレてしまい、それが原因で顎に悪影響を与えている恐れがあります。
顎への負担は口の開閉ごとにかかるため、顎の関節には徐々に負担が積み重なります。
最終的には、顎関節症を代表するような大きなトラブルに繋がる例もゼロではありません。
3-4 虫歯や歯周病になりやすくなる
歯と歯の間には、汚れが溜まりやすくなります。
食べカスが溜まりやすくなるほか、磨き残しになりやすい部分です。
汚れが日常的に蓄積されていくと、虫歯や歯周病に発展することは十分考えられます。
3-5 顔にコンプレックスを抱く可能性も
すきっ歯は、見た目の印象にも関係してきます。
すきっ歯が目立つことをコンプレックスとして感じる人もいます。
人に見られたくないと思いが強いと、憂うつになったり、人と会うことを避けるようになる場合もあります。
このような精神的なコンプレックスは人それぞれですが、空隙歯列を放っておくと、精神面にも大きな影響を与えることを忘れてはいけません。
4.空隙歯列の治療方法
4-1 ワイヤーブラケットやマウスピースによる矯正治療
空隙歯列を治療する際には、歯列矯正で使われるワイヤーブラケットを用いて圧力を加え、歯の隙間を詰めるように矯正していきます。
ワイヤーブラケットは、三次元的な歯の移動(縦・横・奥行きの移動)が可能です。
全体的に不正咬合の(噛み合わせが悪い)人や、噛み合わせの異常により顎への負担が大きい人に対しても治療が可能です。
症状によっては、患者さん自身で取り外しのできるマウスピースで矯正治療をおこなうこともできます。
マウスピースを装着することで、歯に圧力を加える治療法です。
4-2 ラミネートベニア法とダイレクトボンディング法
歯の表面を薄く削り、そこへ薄いセラミックを接着し、歯の隙間を埋める方法です。
ワイヤーブラケットのように歯を移動させる治療ではなく、歯のすき間を埋めるための方法です。
歯並びに大きな問題がない場合は、この方法で見た目上の隙間を埋めることができます。
この治療法を受けることができる患者さんは、顎への負担がない、噛み合わせに異常がないことが条件になります。
類似した方法に、コンポレットレジンと言われる合成樹脂を歯の一部に接着し、隙間を埋めるダイレクトボンディング法があります。
歯を削ることがないというのがメリットですが、その反面、長い期間を経ると変色してしまうというデメリットがあります。
4-3 セラミッククラウン法
差し歯を使った対処法です。
歯の大きさや形に異常がある場合は、セラミッククラウン(セラミックでできた歯冠)をかぶせて調整し、すきっ歯を治療していきます。
この方法も、不正咬合などがなく、歯並びに大きな問題がない場合に検討できる方法です。
4-4 悪癖を治すトレーニングも
舌に悪癖がある場合は、それを治療するトレーニングをすることがあります。
どんなにワイヤーブラケットなどで治療しても、舌が歯を押し出していては、いつまでもすきっ歯の状態が改善しません。
そのため、舌の体操をしたり、正しい舌の位置を確認するトレーニングも同時進行で行っていきます。
5.まとめ
空隙歯列は身体へ大きな影響を与えることがあるため、「ただのすきっ歯だから…」と放っておくのは危険です。
もし、すきっ歯が咀嚼障害を引き起こしていたら、胃腸に負担をかけていることも考えられます。
空隙歯列に思い当たるようであれば、身体に異常がないか、少し振り返ってみましょう。
思わぬところに空隙歯列の悪影響があるかもしれません。
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