奥歯を噛むと痛いときは、眠れなかったり何にも集中できなかったりするため、一刻も早く痛みを抑えたいと思うものです。奥歯は、食べ物を噛むことのほか、咬み合わせや発音、重い物を持つときに食いしばるなど、さまざまな場面で重要な役割を果たします。この記事では、奥歯を噛むと痛いときの応急処置、控えた方がいいこと、奥歯が痛む原因と治療法を紹介しています。虫歯や親知らず、被せ物の劣化のほか、細菌が入り込んで病気を引き起こしているケースもあるので、きちんと原因を確認して対処していきましょう。
この記事の目次
1.奥歯を噛むと痛いときに考えられる原因と治療法
1-1虫歯
■原因
虫歯が進行すると、歯が溶けて穴が開きます。
溶けた分だけ歯が薄くなり、虫歯部分と神経との距離が近くなります。
この状態では刺激が神経に伝わりやすく、冷たい飲み物がしみるといった症状が出ることがあります。
虫歯が神経に達するとさらに強い痛みが生じ、噛んだときに痛みが増します。
■治療法
神経に達する前の虫歯は、歯を削って詰め物や被せ物をするのが一般的です。
神経に達している場合は、麻酔をして神経を抜く、歯の根の治療(根管治療)をおこないます。
1-2歯周病
■原因
歯周病は、歯周ポケット(歯と歯茎の間)に溜まった歯石や歯垢(しこう=プラーク)によって、歯茎が炎症を起こす病気です。
炎症が進むと、歯を支える骨も溶かされていきます。
痛みが出ることは少ないですが、急激に歯茎の炎症が起きると痛みを伴うこともあります。また、歯周病が原因でかみ合わせに問題が生じると、咬合性外傷という状態になり、噛むと痛みが出るケースもあります。
■治療法
早期発見できれば、歯石を除去することで改善が期待できます。
進行している場合、歯周ポケットの深い部分の歯石を除去する治療や、歯茎を切開して歯石を除去する治療をおこなうこともあります。
なお、歯医者さんでは歯石の除去と併せて、ブラッシング指導をしてくれます。
正しい歯磨きの仕方を覚え、歯垢や歯石を溜めないようにすることが大切です。
1-3親知らず
■原因
親知らずが斜めや横向きに生え、手前の歯や歯茎を圧迫するようになると、痛みを感じることがあります。
また、途中までしか生えないと歯ブラシが行き届かずに食べカスが溜まり、細菌が増殖することで虫歯になったり、周囲の歯茎に炎症を起こしたりして痛むこともあります。
■治療法
一般的に、トラブルの原因になる場合は抜歯を選択することが多いようです。
親知らずが原因で虫歯や炎症を起こしている場合、治療しても再発する確率が高くなるためです。
抜歯するかどうかは、親知らずが生えている向きや、周囲の歯や歯茎に与える影響といったことも関わってきます。
治療法については、歯医者さんを受診した際に詳しく聞いてみましょう。
1-4歯に負担がかかっている
■原因
咬み合わせが悪いと、噛んだときに特定の歯に負担がかかります。その歯にダメージが蓄積し、噛んだときに痛みが生じることがあります。
また、歯ぎしりや食いしばりも痛みの原因になります。繰り返されると、歯の根の周りを覆っている歯根膜(しこんまく)と呼ばれる、薄い膜のような組織が炎症を起こすことがあるためです。
歯根膜は、口の中に髪の毛が一本入ったような、小さな刺激ですら感じ取れるほど敏感であると言われていて、炎症を起こすと噛むことに強い痛みを感じるようになります。
■治療法
咬み合わせを改善するための治療法は、症状の度合いや原因によって異なります。
歯を少し削っただけで改善することもあれば、削った上で被せ物をしたり、歯列矯正をしたりすることもあります。
具体的な治療法は歯医者さんを受診した際に詳しく聞き、自分が納得のいく方法を選ぶようにしましょう。
歯ぎしりは、寝ている間などに行っている場合、意識して改善することが困難です。
歯医者さんで、歯ぎしり防止用のマウスピースを作製することも検討しましょう。
また、歯ぎしりや食いしばりの原因の多くは、ストレスと言われています。適度な運動を取り入れる、リラックスできる時間を設けるといった、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。
1-5歯の破折(はせつ)
■原因
歯が割れたり折れたりすることを「破折」と言います。
少し欠けただけであれば痛みが出ない場合も多いですが、歯の神経が露出してしまっていると強い痛みが生じることがあります。
■治療法
神経が露出している場合は、神経の治療が必要になります。亀裂から細菌が侵入する恐れもあるため、なるべく早く治療することが大切です。
また、少し欠けただけで痛みがない場合も、欠けた部分が尖っているとお口の中を傷つけてしまうことがあるので、歯医者さんに相談するようにしましょう。尖った部分を丸くする、かけらを接着して修復するといった対処をしてもらえます。
まずは歯医者さんを受診し、症状の度合いを診てもらうとともに、より良い治療法について相談しましょう。
1-6歯の根に細菌が入り込んでいる
■原因
神経が死んで腐ってしまったり、治療で取り除いてしまったりした歯の根に細菌が侵入すると、根尖(こんせん=歯の根の先端部分)にまで炎症を起こすことがあります。
これを根尖性歯周炎と言います。
骨の中まで炎症が進んでおり、噛むと痛いほか、たまに強い痛みが生じることもあります。
■治療法
歯の根の中に溜まっている膿を抜き、汚れをきれいに洗浄して消毒します。
再度細菌に感染するのを防ぐため、歯の根に詰め物をしてしっかりと塞(ふさ)ぎます。
根の治療をしてもこうした症状が出てしまった場合には、歯の根の先を切除したり、抜歯したりすることもあるようです。
1-7鼻の横まで細菌が入り込んでいる
■原因
鼻の横にある骨に囲まれた空洞を、上顎洞といいます。
上顎の奥歯に虫歯や歯周病があり、歯の根まで進行している場合、細菌が上顎洞に侵入して炎症を起こすことがあります。
これは歯性上顎洞炎と呼ばれるもので、特に急性の場合には、歯の痛みが生じるケースがあります。歯痛のほか、膿のような鼻汁や頬の痛みなどが生じるのが特徴です。
■治療法
投薬による上顎洞炎の治療と、歯に起こった虫歯や歯周病の治療をあわせておこなうのが一般的です。
炎症の度合いや歯の状態によっては、抜歯することもあるようです。
歯科口腔外科を扱っている歯医者さんや、耳鼻いんこう科で対応してもらえます。
1-8治療した歯に痛みがある場合
■原因
クラウン(歯の被せ物)が劣化したり欠けたりすると、隙間に食べカスが入り込んで溜まることがあります。
細菌が増殖し、クラウンと歯の隙間に虫歯ができると、噛んだときに痛みを感じるようになります。
また、抜けてしまった部分の両隣の歯を削って土台にし、人工の歯を架け橋のように被せる「ブリッジ」という治療をおこなった場合、土台になっている歯が痛むケースもあります。
土台の歯は、削られたことに加えて、2本で3本分の噛む力を支えることになります。その分大きな負担がかかるため、神経が刺激を受け、噛んだときに痛むことがあるのです。
■治療法
クラウンの劣化や欠けであれば、クラウン自体を作り直す、虫歯になっていればクラウンを外して虫歯を治療する、といった方法があります。
ブリッジの場合は、咬み合わせを調整して様子を見ることがあります。症状が改善されない場合や土台が虫歯になっているケースでは、ブリッジを撤去して歯の治療をすることもあります。
ブリッジを撤去した場合、再度ブリッジにするかどうかは、歯医者さんとよく相談して決めましょう。
2.奥歯を噛むと痛いときの応急処置と控えた方がいいこと
2-1応急処置
応急処置の方法 | ポイント |
患部を頬側から冷やす |
・氷を濡れタオルに包み頬側から患部を冷やす ・氷がない場合は冷却シートを貼る ・頬や奥歯を氷で直接冷やさないよう注意する |
ぬるま湯で口をゆすぐ |
・ぬるま湯(または常温の水)でやさしくゆすぐ ・冷たい水でゆすいだり強くゆすいだりしない ・汚れが残っていればケア用品で取り除く(患部に触れないよう注意する) |
市販薬を飲む・塗る | ・注意書きや用法用量を守って正しく使用する
・飲み薬は効き始めるまでに時間がかかるため、早めに飲む |
■患部を頬側から冷やす
冷たい水で濡らしたタオルで、頬側から患部を冷やしましょう。
冷却シートがある場合は、頬に直接貼って冷やします。
冷やすことで患部の血流を緩やかにすると、痛みがやわらぐ作用が見込めます。
氷を直接頬に当てたり、口に含んで奥歯を直接冷やしたりするのは、逆効果になる恐れがあるため控えましょう(※)。
※逆効果になる恐れがある理由については、「やってはいけないこと」の項目で詳しく説明します。
■口をゆすいで清潔にする
軽く口をゆすぎ、口内の汚れを取り除きましょう。奥歯に食べカスや汚れが詰まっていると、痛むことがあるためです。
冷たい水でゆすいだり、強くゆすいだりすると、刺激となり痛むことがあるので気をつけましょう。
ゆすいでも汚れが取れないときは、患部に刺激を与えないよう丁寧に、ケア用品で汚れを取り除きましょう。
■市販の鎮痛剤を使う
飲むタイプの鎮痛剤は、痛みが落ち着くまでに時間がかかることがあります。
痛みを感じたら、早い段階で飲んでおきましょう。
また、神経まで到達した虫歯の痛みをはじめ、症状によっては市販薬で抑えきれないケースもあるため、注意が必要です。
※市販薬を使用する際には薬剤師の指示に従い、用法用量を守って使用してください。
2-2控えた方がいいこと
■頬や歯を直接冷やす
氷を直接頬に当てる、長時間冷やす、氷を口に含んで奥歯を直接冷やす、といったことは避けましょう。
冷やしすぎると血行不良を招く恐れがあるほか、急な温度変化が刺激となり、痛みを増大させてしまうことがあります。
■患部に触る
刺激を与えてしまうと、痛みが増すことがあります。
口の中の汚れを取り除く際も、患部にはできるだけ触れないよう注意しましょう。
■入浴・飲酒・運動など、血行が良くなること
血行が良くなると血流が神経を圧迫し、痛みが強くなることがあります。
飲酒や運動は控え、入浴時も熱いお風呂につからないことをおすすめします。
同様の理由で、患部を温めることも控えたほうが良いとされています。
■喫煙
以下のようなメカニズムで、痛みが増加することがあります。
喫煙は控えた方が良いでしょう。
タバコに含まれるニコチンには、血管を収縮させる作用がある ↓ 血管が縮まると、血流が悪くなる ↓ 血流が悪くなると、それを改善しようとして血圧が高くなる ↓ 痛みを感じやすくなる |
3.まとめ
奥歯を噛むと痛く、すぐに歯医者さんを受診できないときは、応急処置を検討しましょう。その後は、できるだけ早く歯医者さんを受診して原因を特定し、正しい処置につなげることが大切です。
併せて、毎日の歯磨きを丁寧におこない、痛みの原因となる虫歯や歯周病を防げるよう心がけましょう。
【参考サイト】
e-ヘルスネット(厚生労働省)
口腔外科相談室|日本口腔外科学会
歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020(日本歯科医師会)
【監修医 貝塚浩二先生のコメント】
噛んで痛いと食事ができにくくなるので、なるべく早くかかりつけ歯科医院で診てもらって下さい。
【あわせて読みたい】
監修医
貝塚 浩二先生
コージ歯科 院長
経歴
1980年 岐阜歯科大学 卒業
1980年~ (医)友歯会ユー歯科~ 箱根、横浜、青山、身延の診療所 勤務
1985年 コージ歯科 開業
1996年~2002年 日本大学松戸歯学部生化学教室 研究生
歯学博士号 取得
2014年 昭和大学 客員講師
現在に至る
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